研究概要 |
本年度は,多自由度の分子系における種々の輸送現象を書き表すことのできる,新たな近似計算理論の開発に重点を置いて研究を行った.本研究課題の研究対象である集光デンドリマーの性質を調べるためには,このような多自由度系を扱い得る理論が必須だからである.具体的には,多自由度系の実時間量子波束ダイナミクスを効率よく近似できる理論として知られている半古典プロパゲータに対し,(1)半古典プロパゲータの位相空間表示への拡張,(2)一部の自由度を古典力学的に扱う半古典プロパゲータの開発,(3)量子散逸系の半古典プロパゲータの開発,という3段階の拡張を施し,周囲の環境とのエネルギーのやり取りが存在する系(散逸系)に適用できるようにした.これは,これまで困難であった多自由度系の実時間緩和ダイナミクスをシミュレートするための有力な手法となり得るものである. また一方で,集光デンドリマーのエネルギー移動機構については,集光デンドリマーの樹状構造の特徴を反映させたモデルハミルトニアンを提案し,その性質を明らかにすることを目指して研究を進めた。 その結果,樹状構造特有の対称性をうまく利用することで,元のハミルトニアンを,いくつかの単純なハミルトニアンに分割できることを見出した.これは,一見複雑に見えるデンドリマーの運動を,いくつかの単純な運動の組み合わせとして表現できるということを意味する.この性質はこれまで知られていないものであり,集光デンドリマー特有の高効率エネルギー移動に関与している可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
集光デンドリマーなどの,多自由度の系の実時間緩和ダイナミクスを記述できる基礎的な計算手法を開発したことは,今後具体的な研究に入っていくために必要なことである.また,集光デンドリマーの具体的な性質を調べていく足がかりとして,系固有のの高い対称性に起因する性質を見出した.これらの成果は今後の研究のベースとなるものであり,初年度の成果としては順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
集光デンドリマーの運動がいくつかの単純な運動の組み合わせとして表現できることがわかったので,今後はそれらの運動がどのように影響しあうか精査し,また,それが励起エネルギー移動という現象について,どのような役割を担っているのか明らかにしていく.この際は,上記の多自由度の系の実時間緩和ダイナミクスを記述できる半古典プロパゲータを使用する予定である.
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