研究課題/領域番号 |
12J08160
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 智弘 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特別研究員(DC1)
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キーワード | インフレーション / 初期磁場 |
研究概要 |
私の研究課題は「宇宙のインフレーション期における種磁場生成」である。この研究の目的は大きく分けて2つある。1つは、2010年にFermi衛星の観測によって発見された宇宙磁場を説明するようなインフレーションモデルを提案し、モデルの満たすべき条件を求めることである。宇宙磁場の存在は観測によって確かめられたが、その生成機構は依然として不明であり、インフレーションでの磁場生成が有力視されてるにも関わらず、未だ観測的下限を超える磁場生成を成し得る具体的なモデルは知られていない。そこで私は、インフレーションで十分な磁場生成を行なうためには、どのような条件を満たす必要があるのかを、モデルによらない一般的な枠組みで調べたい。2つ目の目的は、宇宙磁場との関係からインフレーション機構に対する理解を深めることである。宇宙磁場がインフレーションによって生成されたとすると、宇宙磁場の観測からインフレーションの物理に関する情報が引き出せるはずである。具体的には、宇宙磁場と関係する形でインフレーションモデルを制限する新たな観測量を見出したい。 以上のような目的のもと、今年度の研究を行った。今年度の研究成果はモデルによらない一般的な枠組みのもと、インフレーション磁場生成を解析し、インフレーションに対する制限を得たことである。具体的にはインフレーションのエネルギースケールが10"11GeVよりも低くないと、インフレーション磁場生成はいかなるモデルでも実現できないことを自然な仮定の下で数学的に導き出した。この研究は3つの点で意義深いものである。まず第一に、モデルに依らない研究である点が挙げられる。初期宇宙における磁場生成研究のほとんどは、モデルを構築し、それらを制限するというものであり、モデル依存性が強いものばかりであった。そのような研究をいくら続けたとしても、磁場生成の持つ一般的性質は見えてこない恐れがある。しかしながら、私の研究では、量子化を行うために正準運動項の形だけは仮定するものの、ほとんど仮定を置かない議論だけで制限をインフレーション自体に対する制限を導き出しており、モデルごとの場当たり的な研究とは一線を画するものである。第二に、磁場と他の観測量を結びつけた点が独創的である。インフレーション期につくられる重力波は理論的・観測的に近年注目されており、日本のKAGRAも含め世界の大規模観測計画がその検出を目指してしのぎを削っている。私はインフレーションでの磁場生成と検出可能なレベルの重力波生成が両立しないことを発見した。このため、近い将来に背景重力波が検出されたとしたら、宇宙に存在する磁場はインフレーションで作られたのではないことが分かる。従って、研究の目的の箇所で言及した、宇宙磁場と関係する観測量の1つの答えは重力波である。最後に三点目として、モデル構築への示唆がある。モデルに依らない議論で高エネルギーインフレーションが制限されたとすると、自ずとモデル構築のためには、低エネルギーインフレーションに集中してよいことになる。また、カーバトンなどの機構も支持される。そのように、一般的な議論は、モデル構築へのガイドラインとしての役割も果たすのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、24年度はインフレーション磁場生成理論をモデルによらない一般論で解析するための準備に当てる予定であった。しかしながら、数学的技巧によって、大掛かりな理論的枠組みを用意しなくとも一般論を展開することができた。また、目標であった磁場と他の観測量と結びつけることも達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
インフレーション磁場生成理論をモデルに依らない一般的な議論によって制限することができたが、実際には宇宙磁場は観測されており、何らかの機構によって宇宙磁場が生成されたことは揺るぎない事実である。そのため、一般論を構成するにあたって培った理解を用い、モデル構築にも挑戦したい。そのような試みの過程で、また理解が深まればより一歩進んだ一般論を展開できるようになることが期待される。また、25年度4月には宇宙背景放射の観測をしていたプランク衛星がデータを公開した。本研究課題に関連して、その最新の観測的成果を生かした研究も考えていきたい。シュウィンガー効果という量子電磁力学における非摂動効果がインフレーション磁場生成において無視できない役割を果たす可能性についても研究する予定である。
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