本研究では、生体用Co-Cr-Mo-N合金の塑性変形時に発生する変形有機マルテンサイトの形成に及ぼす結晶粒の大きさと結晶粒の方位の影響を調査し、生体材料の摩耗特性を向上させる条件を明らかにする。まず、今年度は様々な結晶粒の大きさの試料を引張変形して変形有機マルテンサイトの割合を測定した。 結晶粒のサイズが60から80μmの生体用Co-Cr-Mo-N合金の変形有機マルテンサイトの割合が最大で80%であった。一方、50μm以下の結晶粒の大きさと120μm以上の結晶粒の試料では、変形有機マルテンサイトの割合が40%以下であった。特に、変形有機マルテンサイトの割合は、結晶粒界よりも双晶粒界の密度に大きく依存することが分かった。 Wilkinson法を用いて粒界と双晶の周りの転位密度を計算し、各スリップシステムの残留応力を計算した。また、GNDの密度を計算して変形有機マルテンサイトの形成に及ぼす主な因子を調査した。双晶の周りに転位密度が粒界よりも高く、intrinsicとextrinsic積層欠陥を発生することを確認した。 このため、電位の移動方位が既存のShockley Partial DislocationのSchmid法則に関係がなく、自由に部分転位が移動する。その理由は、Co-Cr-Mo-N合金の積層欠陥エネルギーが常温で"負"の値であるからである。 最終的に"負"積層欠陥エネルギーによって部分転位は自由に移動して、その結果、面心立方体のすべてのスリップ面で変形有機マルテンサイトが発生することができる。しかし、低い変形有機マルテンサイトの形成は、結晶粒の方位に依存する。このような変形有機マルテンサイトの結晶粒の方位依存性は、生体材料の耐摩耗性を理解する上で非常に重要な資料である。
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