研究課題/領域番号 |
12J08216
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀尾 奈央 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 嗅覚 |
研究概要 |
嗅覚や味覚、口腔化学感覚、内臓化学感覚は、食嗜好性に関与し、食物への忌避行動や嗜好行動へとつながる感覚である。そのうち、嗅覚情報が味覚に影響を及ぼすことはヒト官能評価を用いた多くの研究で示されている。レモンの「すっぱい」香気成分は酸味を増強し、イチゴの「甘い」香気成分は甘味を増強する。味覚と嗅覚が相互作用し、食忌避行動や嗜好行動を導いている可能性が示唆されている。味覚において、ホルモンや生理活性物質が味細胞味覚感受性を変化させ、食嗜好行動を調節していることが分子神経レベルで明らかとなっている。しかし、嗅覚においてはそれらホルモンや生理活性物質の中で、嗅神経細胞への感受性や食嗜好行動への影響が分子神経レベルで明らかとなっているものはない。そこで、食忌避・嗜好行動における嗅覚の役割の解明を目的とし、分子、生化学、電気生理学的解析を行った。 初年度は、RT-PCRにより野生型マウスの嗅上皮や嗅球における各種ホルモン受容体の発現を明らかにし、また、マウスの血中ホルモン濃度の測定と嗅球でのマウスの匂い感受性の測定を組み合わせた実験系を確立した。2年目である昨年度はまず、嗅上皮におけるin situ hybridizationを行い、嗅上皮中の嗅神経細胞に、ある種のホルモン受容体が発現することを明らかにした。発現が見られた受容体のリガンドをマウスに投与し、経時的に嗅球における一次神経での匂い感受性を測定したところ、ホルモンの影響は見られなかった。これらの結果より、嗅覚一次神経での匂い感受性にホルモンが影響を与えない可能性と、今回用いた実験系が影響を見るのに適していない可能性が考えられた。今後は行動実験などの別の実験系を用いて解析を進め、匂い感受性に対するホルモンの影響を解明する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの血中ホルモン濃度の測定とマウスの匂い感受性の測定を組み合わせた新たに開発した手法を用いて実際に解析を行うことができ、目的達成のためには別の手法も用いる必要があることを示せたため。
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今後の研究の推進方策 |
申請当初は嗅覚が直接味覚に影響を与える分子神経メカニズムを解明する予定だったが、末梢味覚器・嗅覚器において数種類の同じホルモンの受容体が発現していることに着目し、ホルモンの嗅覚における役割を解明することにより、摂食における嗅覚と味覚の役割を明らかにしようと考えた。初年度、2年度の結果により嗅球での解析ではホルモンの影響を見ることができない可能性が示唆されたため、今後は、行動実験など別の手法も用いて解析を進める予定である。
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