嗅覚情報が味覚に影響を及ぼすことはヒト官能評価を用いた多くの研究で示されており、味覚と嗅覚が相互作用し、食忌避行動や嗜好行動を導いている可能性が示唆されている。味覚において、ホルモンや生理活性物質が味細胞味覚感受性を変化させ、食嗜好行動を調節していることが分子神経レベルで明らかとなっている。しかし、嗅覚においてはそれらホルモンや生理活性物質がどのように嗅神経細胞への感受性や食嗜好行動を調節しているかは未だ明らかとなっていない。そこで、食忌避・嗜好行動における嗅覚の役割の解明を目的とし、受容体発現解析・イメージング解析・行動解析を行った。 初年度は、RT-PCRにより野生型マウスの嗅上皮や嗅球における各種ホルモン受容体の発現を明らかにした。2年目は、嗅上皮におけるin situ hybridizationを行い、嗅上皮中の嗅神経細胞でのある種のホルモン受容体の発現を明らかにした。発現が見られた受容体のリガンドをマウスに投与し、経時的に嗅球における一次神経での匂い感受性を測定したところ、ホルモンの影響は見られなかった。そこで3年目の昨年度は、行動実験によりホルモンの影響を解析したところ、ホルモン投与によって匂いの閾値が変化する可能性が示唆された。これらの結果より、ある種のホルモンは匂い感受性を行動レベルでは変えうるが、嗅覚一次神経での匂い感受性にホルモンが影響を与えない可能性と、今回用いた実験系が嗅覚一次神経での影響を見るのに適していない可能性が考えられた。
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