研究概要 |
今年度は,社会ネットワークを固定したうえで,タカハトゲームを3人に拡張したモデルを構築し,社会ネットワークの情報を用いて連合形成を行う戦略が進化的に安定になる条件を解析した.単純化した仮定のもとで,一般のネットワーク構造についてモデルの構築・解析を行い,社会ネットワークの情報を用いて連合形成時の意思決定を行う戦略がESS(進化的に安定な戦略;その戦略が集団中の多数を占めている場合に,他の戦略が侵入できないような戦略)になる条件を求めた.しかしながら,RHPの情報のみを用いて連合形成を行う戦略も,同様にESSになりうることが示された.この結果の直感的な解釈として,連合形成に利用する情報は,一種のコミュニケーション規則,または社会規範として機能している可能性がある.敗退時のリスクが大きいタカハトゲームの状況では,連合を組みたがっている相手とうまく連合を組むことと同時に,連合が組めない状況をうまく察知し,資源の獲得を諦めることが重要となる.集団をあるひとつの連合形成規則が占有していることは,自分以外の個体が連合を組むような状況をあらかじめ察知することにもつながるため,ある規則(連合形成戦略)がESSとなることが起こると考えられる. 現実には,社会ネットワークを重視した連合形成も,RHPまたは順位を利用した連合形成もどちらも観察される.今後混合戦略などについてより詳細な解析を行うことで,より深い理解が得られると期待される. また,今年度は,Letters on Evolutionary Behavioral Sciences誌に論文が掲載されるとともに,Annual Meeting of the Human Behavior and Evolution Society,日本人間行動進化学会,日本生態学会に参加し発表を行った.日本人間行動進化学会の発表に対して,若手口頭発表賞を受賞した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画ではよりシミュレーションに重点を置いた研究をする予定であったが,より一般的な条件のもと数理的な解析を行うことに成功したため,今年度は解析的な結果を出すことに注力した.しかしながら,その分具体的なネットワークを使ったシミュレーションは遅れており,総合的にみると(2)だと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は一般的な結果を得ることに重点を置いたため,それ自体では現実の現象の解釈が難しいという問題がある.また,解析のために仮定の単純化を行ったため,より現実に近い条件での解析は不十分である.そこで,来年度以降は,今年度の研究では固定した社会ネットワークの動態を同時に考慮すること,現実に観察された霊長類の社会ネットワーク上でのシミュレーションを行う予定である。さらに,今回示唆された連合形成時の意思決定がコミュニケーション・社会規範に近いのではないか,という仮説を検証するため,ESSになりうる意思決定規則の網羅的な探索も視野にいれている.
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