本年度は、研究テーマの「意識にのぼらない視覚刺激が行動に及ぼす影響に関する研究」を実現するため、まず実験系(運動計測装置、視覚刺激提示プログラミング等)の確立を行った。実験は、「あらかじめ注視している固視点を数百ミリ秒前に消すことにより、周辺視野の新たな位置に呈示されるターゲット刺激への眼球運動、手の運動反応が速くなる」とされている、ギャップ効果と呼ばれる現象を使って行った。意識にのぼらない視覚刺激は、両眼視野闘争と呼ばれる異なる視覚刺激を片眼ずつ呈示することによって片眼側の視覚刺激のみ知覚されようになる現象を利用し、「見えないのに存在する」視覚刺激をつくった。実験の結果、見えていない固視点であっても物理的に維持されることにより眼球運動のギャップ効果の抑制、すなわち反応時間に遅れが見られた。一方、手の運動ではこれら見えない刺激による影響が見られなかった。また「見えていないのに実際にはあるもの」に合わせ、「見えていないのにあると思うもの」による運動への影響も調べた。視覚刺激は、対象物が別のものの背後等に隠れている際に、実際には見えていないにも関わらず、あたかもまだ遮蔽物の背後に存在していると感じる、アモーダル補完と呼ばれる現象を使って行った。結果、アモーダル補完によって表現されている固視点は、眼球運動のギャップ効果を半減、手の運動のギャップ効果を消失させることを明らかにした。このことは一つ目の結果と合わせて、両眼視野闘争によって抑制された意識にのぼらない視覚刺激によるギャップ効果への影響が、運動の種類(眼球運動、手の運動)によって異なることを示唆している。これらの結果は、国内学会(日本基礎心理学会)、国際学会(Association for the Scientific Study of Consciousness)で発表し、海外学術雑誌(Vision Research)へ投稿し採択された。
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