研究概要 |
癌抑制遺伝子p53は免疫系とくにウイルス感染防御において個体の生存を左右する重要な機能を担うことは明確である(Takaoka A et al.,Nature,2003;Munoz-Fontela C et al.,Oncogene,2005).しかしその詳細な分子機構は不明な点が多く、特にTLRに代表されるPRRの発現および機能に対するp53の役割は皆無であった。これまでの研究より、我々はp53新規標的遺伝子としてPRRの中よりTLR3を同定し、TLR3の発現および機能制御におけるp53の役割を明らかにしてきた(Taura M et al.,Mol Cell Biol).さらに最近の報告より、p53はTLR3のみならず全てのTLRの発現を正に制御することが報告された(Menendez D et al.,PLoS Genet,2011).そこで本研究では、これまでの研究計画に追加してp53以外の癌抑制遺伝子としてRbに着目してTLR3の発現および機能制御における影響を検討した。Rbもp53同様にウイルス感染防御における重要性は示唆されていたが、詳細な制御機構は全く不明なままであった(Garcia MA et al.,PLoS One,2009)。Rbおよびp53は、HCVやHPV、HHV8などの発癌ウイルスにより発現および機能が抑制されることから、ウイルス初回感染のみならず感染ウイルスの潜伏化に伴う発癌においても、これら癌抑制遺伝子の機能低下を介した自然免疫制御機構の破綻が十分に予想された(Polager S et al.,Nature Rev Cancer,2009)。 本研究では始めに、TLR3の発現および機能が確認されているヒト大腸がん細胞株HCT116にsi-Rbを処理し、RbノックダウンによるTLR3発現量に対する影響を検討した。その結果、TLR3のmRNAおよびタンパク質発現量が低下することが示された。さらにRbノックアウトマウス線維芽細胞においても野生型に比較してTLR3の発現量が低下することが示された。そこでTLR3の機能に対する影響をTLR3の人工リガンドであるpoly I:Cを用いて検討した結果、RbノックダウンおよびノックアウトによりTLR3下流シグナル分子の活性化およびサイトカインの誘導が抑制されることが明らかになった。Rbは転写因子E2Fと結合し、E2Fによる標的遺伝子の転写調節を負に制御することから、TLR3の発現に対するE2F1の影響を検討した。その結果、E2F1は直接的にTLR3 proximal promoter領域に結合し、TLR3の発現を負に制御することが示された。さらに、RbはE2F1の機能を抑制することによりTLR3の転写を正に制御することが確認された。以前の報告よりTLR3の活性化はp53の発現量を抑制することから、Rbに対する影響を検討した。その結果、興味深いことにTLR3の活性化はp53の発現量を抑制する一方でRbの発現量を誘導し、その発現誘導によりE2F1によるTLR3発現抑制が解除され、TLR3の発現が誘導されることが示された(Taura M et al.,Mol Cell Biol,2012)。
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今後の研究の推進方策 |
p53によるPRRの発現および機能解析においては、p53はTLR3以外の他のTLRをも正に制御することが報告されたことから(Menendez D et al., PLoS Genet, 2011)、今後本研究では、p53新規標的遺伝子の同定よりTLRの新規制御因子の同定を優先して遂行する。具体的には、TLRの発現および機能制御におけるp53およびRbのクロストークを検討課題として追加する。更に、癌抑制遺伝子のみならずc-MycやRas、ETSに代表される癌遺伝子のTLRに対する影響を検討する。興味深いことに、最近ips細胞の誘導においてTLR3の活性化が重要であることが報告された。そこで、本研究ではiPS誘導因子(山中因子)であるc-Myc、Sox2、Oct3/4、KLF4によるTLR3発現および機能に対する影響を検討し、効率的なiPS細胞誘導のための基礎検討を行う予定である。
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