研究概要 |
●銅酸化物高温超伝導 三層系銅酸化物高温超伝導体Bi2223は、試料作製が困難なことからBi系高温超伝導体の中で最も高い超伝導転移温度(T_c)を示すにも関わらず先行研究は少ない。Bi2223の角度分解光電子分光(ARPES)測定を行い、外側と内側のCuO_2面のバンド(OP, IPバンド)のそれぞれの低エネルギーキング構造を詳細に調べた。テネシー大学、スタンフォード大学の理論研究室との共同研究により、低エネルギーキング構造の起源を理論的に再現することに成功した。この結果は、現在、本研究員が第一著者として論文を執筆中である。 ●鉄系高温超伝導 鉄系超伝導体は、銅酸化物高温超伝導体に次ぐ高いTCを示すため、近年盛んに研究が行われている。強磁性金属であるBaFe_2As_2のFeサイトに遷移金属原子(Co, Ni, Cu)を置換するとFeAs層に電子がそれぞれ1,2,3個ドープされ超伝導が発現すると考えられていた。しかしながら、Feサイトを遷移金属原子で置換することが及ぼす電子構造の変化については自明ではなく、電子構造の詳細な研究が必要である。FeAs層に4個電子がドープされる不純物元素としてFeサイトをZnで置換したBa (Fe_<1-x>Zn_x)_2As_2の電子構造を調べるために、高分解能ARPESを行い、電子構造がリジッドバンド的な変化をしないことを明らかにした。この研究成果はPhysical Review B (Rapid communication)に掲載された。 ●時間分解電子線回折 ドイツ・ハンブルクの時間分解電子線回折実験装置により、日本から持参した超伝導母物質である遷移金属カルコゲナイドIrTe_2に着手し、すでに従来の電荷密度波状態(TaS_2)で観測される振舞とは異なる長寿命成分など、興味深い結果を得た。これはIrTe_2における異常な電子と格子の絡み合い、すなわちlr軌道や局所ボンド形成などの重要性を示唆するものである。近く成果を論文発表する予定である。
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