研究概要 |
電子デバイスが高密度化し、材料の微細加工は数十nmスケールに達している。将来行われる数nmサイズの材料構築は、原子の大きさに相当するため、原子や分子を集積するボトムアップ型の戦略が有効である。我々は、箱型のかご状錯体の内部で平面状Au三核錯体を積層することで、Au数個(2-20個)からなる[3xn]型Auクラスターの構築に成功している(J. Am. Chem. Soc. 2010,132,15553)。このAuクラスターは全体をかご状錯体の有機配位子で覆われているため、外部との相互作用が十分はたらかないと考えられる。そこで本年度は分子設計を改良し、Auイオンが分子表面に露出したナノワイヤーの構築を行った。まず、錯体分子集積の足場とするために、Au三核錯体を底面にもつ水溶性トレー型分子を合成した。水中で積層構造を得るためには疎水効果が最も重要であるという知見から、浅い疎水ポケットをもつトレー構造さえあれば、平面分子の集積が可能であると考えた。三核錯体をピリジル基で修飾し、Pd (II)イオンを配位させることで、周囲がせり上がった構造を得た。この凹みには、平面状Au三核錯体がゲストとして認識された。全体として、Au三核錯体の積層数(n)は、溶媒条件やAg (I)イオンの添加に応じて任意の数(n=2-4)で調節できた。 一方、Auクラスター自体も高い伝導特性が期待されるため、STMを用いた測定を行った。Auクラスターは、金属数や配列に分布が無いため、電気伝導度特性に代表される基礎的な物性の解明に最適である。伝導度は他の導電分子と比較して極めて大きく、減衰率が小さいことから、Auワイヤーがnmサイズにおいても長距離電子輸送に適していることを示している(Angew. Chem. Int. Ed. 2013,52,6202)。
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