研究課題/領域番号 |
12J08353
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀧本 彩加 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | モラル / 高次感情 / 不公平感 / ウマ / 協力行動 |
研究概要 |
本研究の目的は、モラルの基盤となる高次感情の制御の柔軟性と、協力行動の発達レベルや家畜化との関連に着目し、モラルの系統発生的起源を解明することである。これまでは霊長類を対象に研究を進めてきたが、本研究ではウマとサバンナシマウマを対象に、協力行動の発達レベルと高次感情の制御の柔軟性・その適用範囲に関する実験的検討を行う。本年度は、まず、半野生下で暮らす御崎馬のグルーミングの相互性を観察することで、自然なコミュニケーションにおける公平性を確認した。その上で、飼育下のウマ42頭を対象に、同種個体間における不公平感の認識に関する実験的検討を開始した。なお、不公平感は、協力行動と共進化し、協力行動のパートナー選択の際に役立つといわれる高次感情である。参加個体はまず、ヒト実験者が手にもつ標的物体を鼻でつつくという課題を訓練された。この課題を行うと、ウマは餌報酬を得られた。訓練の達成基準に達したウマから順に、本実験に進んだ。並んだウマ2個体のうち、実験個体は課題をおこなって常に価値の低い餌を得た。他方、相手個体は条件によって、課題をおこなって価値の低い報酬を得たり(公平条件)、課題をおこなって価値の高い報酬を得たり(報酬不公平条件)、課題を行わずにただで価値の高い報酬を得たりした(両方不公平条件)。また統制条件として、相手個体がその場におらず、価値の高い報酬を実験個体に見せるだけ見せ、実験個体に課題を課し、価値の低い報酬を与えるというものもおこなった。測定する行動指標は、実験個体における以下の3つの行動であった:(1)実験者が課題をするよう合図をしてから課題を行うまでの反応時間、(2)餌を呈示してからウマが食べるまでの反応時間、(3)欲求不満を示す行動頻度。なお、現在も継続してデータを収集・分析しているところであり、まもなく、本実験のデータ収集を終えるところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同じ実験を複数の施設で行うと、どうしても実験状況の厳密な統制ができなくなる。そこで、できればウマをかなり多く飼育している施設の協力を得て、同一施設で1つの実験に十分な頭数を確保したかった。また、訓練を要する実験を計画していたため、研究の意義を十分に理解してくださり、長期間にわたる協力を承諾してくださるウマの飼育施設を探すことが必要であった。よって、研究の開始は予定よりも遅れたが、協力を承諾してくださった日本馬事公苑は90頭近いウマを保有し、42頭ものウマを実験に参加させてくださった。そのため、希望通り、同一の施設で実験状況を統制して、実験を行うことができている。現在、データの収集と分析を平行して進め、まもなくデータ収集を終える予定である。よって、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
飼育下のウマの実験は、馬事公苑や東京大学運動会馬術部などの協力を得て、これまでどおり推進できる見込みである。また、シマウマを対象にした実験は、安全性などを考え、すべて実験手続きの妥当性をウマで検証したうえで進める予定である。なお、スムーズにシマウマを対象とした研究に移行できるよう、すでに動物園の関係者の方との話し合いを進めている。
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