研究課題
本研究の目的は、モラルの基盤となる高次感情の制御の柔軟性と、協力行動の発達レベルや家畜化との関連に着目し、モラルの系統発生的起源を解明することである。本研究ではウマとサバンナシマウマを対象に、協力行動の発達レベルと高次感情の制御の柔軟性・その適用範囲に関する実験的検討を行う。本年度は、飼育下のウマ42頭を対象に、同種個体間における不公平感の認識に関する実験的検討をおこなった。なお、不公平感は、協力行動と共進化し、協力行動のパートナー選択の際に役立つといわれる高次感情である。参加個体は、ヒト実験者が手にもつ標的物体を鼻でつつき餌を得るという課題を訓練された。本実験では、並んだウマ2個体のうち、実験個体は課題をおこなって常に価値の低い餌を得た。他方、相手個体は条件によって、課題をおこなって価値の低い報酬を得たり(公平条件)、課題をおこなって価値の高い報酬を得たり(報酬不公平条件)、課題を行わずにただで価値の高い報酬を得たりした(両方不公平条件)。また統制条件では、相手個体がその場におらず、価値の高い報酬を実験個体に見せるだけ見せ、実験個体に課題を課し、価値の低い報酬を与えた。その結果、課題遂行にかかる反応時間は両方不公平条件において最も長くなり、その反応時間は公平条件に比べ有意に長くなり、相手なし条件に比べ有意に長い傾向がみられた。しかし、報酬だけが不公平な不公平条件では、反応時間において他の条件との有意な差は見られなかった。これらの結果から、ウマは労力と報酬の不公平に敏感だが、特に労力の不公平に敏感で、不公平感を認識していることが示唆された。本研究は草食動物における不公平感の存在を実験的に示した最初の研究である。現在、新たに10頭のウマを対象に統制条件を加えた実験的検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
飼育下のウマを対象とした実験研究は、日本中央競馬会馬事公苑・東京大学運動会馬術部の協力を得て、予定通り進められた。また研究の途中経過を発表した国際シンポジウムでは、研究の成果が評価され、発表賞を受賞できた。現在は、ウマとともにサバンナシマウマを対象とした実験研究の準備を着実に進めている。よって、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
飼育下のウマの実験は、馬事公苑や東京大学運動会馬術部などの協力を得て、これまでどおり推進できる見込みである。また、シマウマを対象にした実験は、安全性などを考え、すべて実験手続きの妥当性をウマで検証したうえで進める予定である。なお、スムーズにシマウマを対象とした研究に移行できるよう、すでに動物園の関係者の方との話し合いを進めている。
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Journal of Equine Science
巻: 24 ページ: 31-36
10.1294/jes.24.31