これまでに、SRSF3のノックダウンによるHIPK2 Δe8の選択的な発現は癌細胞の細胞死を誘導することを見出し、がん治療の新たな標的分子となる可能性を示した。さらに、HIPK2FLとHIPK2 Δe8の新規標的因子の同定にも着手し、質量分析法によりクロマチン構成因子HP1γを同定した。 平成25年度は、HIPK2-HPIγを介した新たなDNA損傷応答機構の解明を目指した。1)ヒト大腸癌細胞(HCTl16)のHIPK2をノックダウンすると、非致死量の紫外線(UV-C)を照射しても、DNA障害により生じる(6-4) photoproductsとSer139がリン酸化されたピストンH2A.X(γH2A.X)を除去できず、アポトーシスが誘導されること、及び、hipk1/hipk2欠損マウス胎児線維芽細胞に非致死量UV-Cを照射した場合でもγH2A.Xを除去できないこと、2)免疫沈降法と免疫蛍光染色法により、HIPK2はHP1γのchromo-shadow domainに特異的に結合し、核内で共局在すること、3)in vitro kinase assayとphos-tagを用いたウェスタンブロットにより、HIPK2はHP1γをリン酸化する活性を有し、非致死量UV-C照射によるHP1γのリン酸化を介在すること、及び、HIPK2の過剰発現下ではUV-C照射によるrH2A.Xの集積が抑制されること、4)HP1γをノックダウンしたHCT116に非致死量UV-Cを照射した場合でもアポトーシスとγH2A.Xの集積が誘導されること、5)HIPK2によるHPIγのリン酸化は、HP1γをピストンH3のトリメチル化Lys9とクロマチンから解離させることを見出した。 以上の結果から、HIPK2はHP1γを介してクロマチン構造を制御し、DNA損傷修復を促進する可能性が示された。
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