研究課題
弱磁場の中性子星(<10^9G)と低質量星からなるLow-Mass X-ray Binary (LMXB)は、概ね質量降着率の違いによってソフト状態とハード状態をとることが知られている。私はこれまでにLMXB Aql X-1の「すざく」データ解析を通じ、おもにハード状態における降着流の解明を試みてきた (櫻井+2012、櫻井+2014)。得られた作業仮説から、ハード状態のスペクトルは弱い円盤放射と強くコンプトンされた黒体放射の和で表され、円盤放射の卓越するソフト状態とは対照的であることがわかった。一方、両者とも円盤と黒体放射、そしてコンプトンコロナの3者で説明できることから、実は両状態は連続的である可能性が考えられた。2011年、「すざく」はたいへん幸運にも、Aql X-1がハード状態からソフト状態へ遷移する瞬間を見事に捉える事に成功した。約1日の観測時間中、光度は3.6e37 erg/sから5.1e+37 erg/sまで増大し、カウントレートは~15 keV以下で増大、>15 keVでは大きく減少していた。過渡期の時間を区切り、各々のスペクトル解析を行うと、どの瞬間においても円盤放射と黒体放射、そしてそのコンプトンという3者で再現されることが判明した。ハード状態からソフト状態に遷移するにつれ、コロナの電子温度は~13 keVから~3 keVに減少しており、これがスペクトルの軟化の主要因であった。上記3者の光度内訳の変化を追うと、ハード状態ではコンプトンコロナの光度が優勢であったのに対し、ソフト状態では円盤光度が卓越し、全体の半分程度にまで達した。これはビリアル定理からも無矛盾な結果である。以上から、少なくともAql X-1において、ハード状態とソフト状態は円盤放射、黒体放射、そしてコンプトンコロナの3者で説明でき、両状態は連続的に接続されることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
LMXBにおける中性子星の基礎パラメータ導出を目指し、さまざまな光度におけるLMXBの降着流の解明を試みた。広帯域高感度の「すざく」による良質なデータから、これまでのハード状態の研究(櫻井+2012、櫻井+2014)に加え、2011年に得られたAql X-1の状態遷移のデータ解析を行った。これによりソフト状態とハード状態の橋渡しを達成し、統一的理解に向け大きく前進することができた。ASTRO-Hの硬X線撮像検出器では、デジタルデータ処理系を含めた各コンポーネントの試験が完了することができた、以後は全系を組み上げたうえでの総合的な性能評価を行う予定である。
これまでの研究によってAql X-1については、エディントン光度Leddの10%程度から<0.001Leddまでの広い光度範囲において、ハード状態の降着流の作業仮説を得る事が出来た。加えてソフト状態とハード状態の連続性も検証している。以降の研究の推進方策としては、Aql X-1で得たハード状態の仮説が他の多くのLMXBにおいても同様に成り立つかを検証する事が重要である。したがって、「すざく」アーカイブの中からハード状態にあるLMXBのデータを探し、それらに「Aql X-1モデル」を適用していく予定である。もし説明できない天体(データ)が存在したら、仮説の補強もしくは再構築を行う。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Publ. Astron. Soc. Japan
巻: 66 ページ: 10-1,10-11
10.1093/pasj/pst010