研究課題/領域番号 |
12J08389
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福井 文威 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 高等教育 / 寄付 / 高等教育財政 / 高等教育政策 / アメリカ / 寄付税制 / 大学団体 |
研究概要 |
本研究の目的は、1980年代以降の米国の高等教育財政にみられた寄付の拡大現象に着目し、その拡大要因を制度的側面から実証的に検証することを目的とするものである。米国の高等教育は、他の先進諸国に先駆けて寄付を拡大させた事例と位置づけられ、この規定要因を明らかにすることを通じて、人が高等教育に対して寄付をするという行為がある社会で拡大するための諸条件を詳らかにすることを目標としている。 初年度は主に2つの作業に従事した。ひとつは、従来の研究で米国の高等教育に対する寄付が株式市場と連動する事が指摘されてきたことを踏まえ、その関係性が成立するための条件について制度的側面より検討を行った。特に、株式や土地等の評価性資産を寄付した際に適用される連邦政府の慈善寄付控除制度の構造に着目し、株価と高等教育に対する寄付が連動するかどうかは、この政策的な誘導条件があるか否かに規定されている可能性を検証した。米国のマクロ統計データを用いて分析を行った結果、米国の高等教育財政における個人寄付の拡大は、単純な株価の変動からのみ説明するべきではなく、評価性資産の寄付に対する連邦政府の優遇政策が複合的に機能したことによるものと解釈する必要があることを指摘した。この内容については拙論「米国の高等教育財政における個人寄付の時系列分析―資本市場と連邦寄付税制の役割に着目して」としてまとめ『高等教育研究』第15集(日本高等教育学会)に成果を公表した。 いまひとつは、米国の教育財政カウンシルが発行する1970年代から1990年代の米国の個別大学の寄付収入データを収集し、それらを電子化したデータベースを構築した。このデータベースにより個別大学の特性を踏まえた分析が可能となり、米国の高等教育財政における寄付の拡大要因をより精緻に解明することを翌年度の目標としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に従い研究を遂行しており、日本高等教育学会の高等教育研究紀要に査読論文を完成させたことからも、着実に成果を上げていると考えられる。また、年度後半には、パネルデータとして分析可能なデータベースを構築しており、翌年度の研究計画に向けて順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、パネルデータのデータセットを構築したことにより、個別大学の特性(大学規模、寄付募集努力)などを踏まえた上で、連邦政府の寄付優遇政策や景気変動の影響を検証することが可能となった。翌年度は、このデータベースの分析を進めていくことを予定している。同時に、高等教育セクターにおける慈善寄付控除制度の歴史的な位置づけを明らかにするために、米国連邦政府の議会議事録の内容分析を進めていくことを予定している。
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