研究課題/領域番号 |
12J08408
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池田 達彦 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 熱・統計力学基礎 / 量子統計力学 / 量子純粋状態 |
研究概要 |
孤立量子系におけるユニタリ時間発展の下での熱平衡化の存在が明らかにされつつある中で、私は熱平衡状態間の遷移においてどのように熱力学第二法則を定式化するかという研究課題に取り組んだ。これまで熱力学エントロピーの量子力学的表式として用いられてきたフォン・ノイマンエントロピーは、準静的でない外部操作を含むあらゆる外部操作の下で不変に保たれ、熱力学第二法則と整合的でない。私は近年提案された対角エントロピーに注目し、これが熱力学第二法則と整合的であることを示した。対角エントロピーとは、エネルギー固有基底における密度行列の対角成分から構成されるシャノン・エントロピーである。外部操作をハミルトニアンに含まれる磁場などの外部パラメーターの時間的変調とし、外部操作後の対角エントロピーを操作が行われる時刻の関数として解析した。操作時刻を一様分布とすると、熱力学極限において確率1で終状態の対角エントロピーが始状態のそれ以上になることを発見した。適当な条件下で対角エントロピーが満たす相加性および示量性を考慮すると、本研究結果は対角エントロピーが孤立量子系において現時点で最も相応しい熱力学エントロピーの量子力学的表式であることを示したことになる。また、本研究では熱平衡状態をカノニカル分布などの統計的混合状態ではなく1つの純粋状態で表現しており、ジャルジンスキー等式やゆらぎの定理など、非平衡統計力学における関係式の成立範囲がさらに拡張される可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対角エントロピーの増大則を定理として整備することが出来た。本研究は研究の目的の1つである非平衡統計力学の発展に向けて足がかりとなる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は孤立量子系への外部操作における熱力学第二法則を研究した。これは外部操作に対する孤立量子系の応答というより広い問題の1つの例だと見做すことが出来る。今後はエントロピーの増減だけでなく、磁化など直接観測可能な量の応答の定量的解析への発展を目指し、研究を行う。
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