研究課題
バイオペースメーカー作製のための分子基盤の確立には、これまで行われてきた幹細胞の分化誘導実験だけではなく、刺激伝導系形成の発生学的アプローチからの研究によって得られる知見が必要不可欠である。しかし、マウスをはじめ哺乳類における心臓発生過程での刺激伝導系形成の分子機序については、未だ明かになっていない部分が多い。本研究は、様々な遺伝子改変マウスおよびmouse-chickキメラ作製の手法を用い、心臓発生における刺激伝導系形成に関与する細胞群の系譜・挙動をi vivo・in ovoで解析すると共に、in vitroの培養系によっても分化誘導に関するシグナル機構を明らかにすることを目的とする。これまでの報告と私の研究から、心流入路に由来するエンドセリンA型受容体(Ednra)陽性細胞群は、刺激伝導系形成おいてに重要な役割を担っていることが考えられた(Asai et al., 2010)。そこで、このEdnra陽性細胞群に着目し、主に以下の研究を行った。1)心流入路Ednra陽性細胞群の細胞系譜解析-Ednra-CreERT2マウスの作製2)Mouse-Chickキメラによるin vivo刺激伝導系再構築の試み心流入路Ednra陽性細胞群の系譜解析を行うため、Ednra-CreERT2 ; R26Rマウス胎生8.25日(E8.25)において、タモキシフェンを母胎に投与した結果、β-galで標識されたEdnra陽性細胞群は、左心室・両心房における作業心筋だけではなく、洞房結節をはじめとした刺激伝導系に寄与することが確認された。よって、胎生初期における心流入路Ednra陽性細胞群は、作業心筋・刺激伝導系の両方の細胞系譜に寄与することが示唆された。さらに、心臓を構築する細胞群の発生期における挙動を、in vivoにおいて検討し、刺激伝導系の再構築を目指すため、マウス-ニワトリ胚間で心流入路の移植を行うキメラの実験系の確立を行った。
2: おおむね順調に進展している
この研究計画において重要な位置を占める、Ednra-CreERT2マウスの樹立およびマウス・ニワトリ胚キメラ作製の系を確立できたため、今後、この実験系を用いた研究の発展が多いに期待される。特に、Ednra-CreERT2マウスによる実験データから、"心流入路由来Ednra陽性細胞群は刺激伝導系形成に寄与する"という作業仮説を裏付けることができたため、(2)の評価をした。
今後は、以下について着目し、研究を進める方針である。。1)心流入路Ednra陽性細胞群を対象とした刺激伝導系細胞への分化誘導シグナルを探索2)生体内における刺激伝導系再構築まず、1)については、主にin vitroでの培養系を用いて、薬剤添加により検討する。2)については、マウス・ニワトリ胚キメラの系を用い、発生期における刺激伝導系形成の機序の解明を目指す予定である。
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Nature Communications
巻: 3 ページ: 1267
10.1038/ncomms2258