研究概要 |
研究の最終目的は、①生体内における間葉系幹細胞(以下MSCs)を追跡することのできるレポーターマウスを作製し、②生体内でのMSCsの局在、動態を解明し、③組織損傷後の創傷治癒に関する検証を行うことである。 組織損傷後、損傷治癒が起こる際には、組織特異的体性幹細胞が中心的役割を担うと考えられている。これまでに骨髄間質細胞を用いて骨髄以外の損傷組織に対し、局所移植による治療を行った報告があるが、なぜ骨髄間質細胞にそのような効果があるのか、そして移植細胞ではなく生体が本来持っている骨髄間質細胞は損傷個所に誘導され治癒効果があるかについては明らかにされて来なかった。しかし、安全で高効率な移植治療を行うためには、疾患形成のメカニズム及び組織修復機序における幹細胞の役割を生物学的に詳細に解明することが必要である。当研究室ではこれまでにフローサイトメーターを用いて、細胞表面抗原を指標にヒト骨髄細胞(LNGFR, THY-1共陽性分画)とマウス骨髄細胞(PDGFRa, Sca-1共陽性分画)から培養を介さず、MSCsを直接分離する方法を確立し、既に報告している。この方法で得られた細胞を用いて、申請者はこれまでにマウス・ヒトMSCsに特異的である間葉系幹細胞の未分化性維持に重要である候補遺伝子を絞り込んでいた。 本年度は昨年度に続いて、マウスでの解析に先行して進めていたヒト間葉系幹細胞を用いたin vitroでの候補遺伝子の解析を集中的に行った。候補遺伝子を発現抑制すると、細胞の形態変化だけでなく、増殖能が著しく低下し、また脂肪細胞への分化能が低下した。また、SA-β-gal陽性細胞の割合が増加し、細胞周期関連遺伝子であるp16の発現量が有意に増加した。さらに候補遺伝子を過剰発現すると、対照群に比べて、細胞の増殖期間が延長した。 これらの結果より、この候補遺伝子は間葉系幹細胞の未分化性維持に重要な因子であるという可能性が示された。
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