研究概要 |
無限ビット列のランダム性解析と,ボレル可測函数(ベール函数)の不連続性の分類研究を行った.前者については,無限ビット列のランダム性をそれを内包する実効的閉集合の性質によって捉える研究を推し進め,実効化された強零集合の最適半測度,コルモゴロフ複雑性およびマルチンゲールによる特徴付けを与えた.また,フラクタル幾何学における基本的な次元概念の1つであるハウスドルフ次元の概念を修正した新たな次元概念を導入することによって,Kurtzランダム性に対する一様デランダマイズ能力のフラクタル次元論的特徴付けが可能であることを示した.さらに,痩加法集合や零加法集合等のσ-イデアルをなす概念を用い,実数の集合論的技法を借用することによって,無限ビット列のランダム性のビット加法に対する安定性をコルモゴロフ複雑性やマルチンゲールによって捉えられることを示した. 後者の研究については,記述集合論において,近年,多くの研究者らによって中心的な問題とされ,注意が喚起されていたボレル可測函数の分解予想に対して,部分的解決を与えた.報告者は,位相次元が∞でない完備可分距離空間XYの間の写像F:X→Yと可算順序数α≦β<α・2に対して,Yの加法的α級ボレル集合のFによる逆像は加法的β級ボレル集合であり,この逆像を実現するYの加法的α級ボレル集合の超空間からXの加法的β級ボレル集合の超空間への連続写像が存在することと,空間Xの加法的β級ボレル可算分割が存在して,各断片上でFはγ+α≦βを満たすあるγについてベールγ級写像であることが同値であることを示した.加えて,有限級ボレル函数まで提示されていなかった分解予想を超限級に一般化する予想を打ち立てた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ランダムネスの理論については,実数のσ-イデアルの集合論が想定以上に有用である結果を示し,無限ビット列のランダム性に対する想定外の特徴付けをも得た.また,ベール函数の分類研究に対しては,単純な特徴付けや反例構成などの成果に留まらず,具体的で重要な未解決問題の部分的解決を与えるに至った.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題をより発展させるためには,ランダムネスの理論については,幾何学的測度論や実数の集合論の更に深い道具を導入し,計算可能性理論の技術と噛み合うように融合させる必要があると考えている.特にidealizedforcingなどの手法をランダムネスの理論に導入するための整備を行う方策である.実関数の不連続性の分類については,ベール函数の微細な解析的性質を調査する必要があり,より高度な実解析学の理論が必要となると考えている.一方で,優先度法などの標準的な実解析学では用いられない手法を実解析学に持ち込み,具体的な反例構成によって不連続性の微細構造を探る試みも行っていく方針である.
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