研究課題/領域番号 |
12J08529
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴田 和宏 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 科学史 / 西欧初期近代思想史 / ベイコン主義 / 生命観 / 国際情報交換 / イギリス |
研究概要 |
本研究の課題は17世紀の英国で起こった自然哲学の変化に対してフランシス・ベイコンの思想が果たした役割を明らかにすることであった。当該年度にははじめに1660年代におけるベイコン主義の変容に注目した。大陸からの自然哲学の流入が本格化する時期にあたるこの年代には、そうした自然哲学とベイコンの思想が結びつくということが起こった。ロバート・ボイルの著作を利用してその結びつきのケース・スタディを行うとともに、別の自然哲学観を持っていたトマス・ホッブズなどの考えの分析を行った。 これに加えて、研究開始当初には十分に本研究の視野に入っていなかった当時の生命観や医学的な考えに注目することの必要が研究を進めるなかで理解されるにいたった。これらの領域はベイコンが一貫して関心を持ち研究を重ねた分野であり、後年に影響力を持ってベイコン主義の核となった自然哲学の改革についての彼の考えと不可分のものだということが浮かび上がってきたのである。しかし先行研究のなかではこの領域は必ずしも十分に論じられてこなかった。それゆえ生命観と医学の領域の検討は、本研究の目的達成のための不可欠であるのみならず、それ自体として科学史研究への独自の貢献となるものである。そのため当該年度には、並行してベイコン自身やその後の世代の人々の生命観や医学の研究にも取り組んだ。その最初の段階として、先行研究のなかで十分着目されていなかったベイコンの作品『死の道について』で断片的に表明された生命観を体系的に再構成するとともに、それが彼の独特な物質論と経験主義的な学問観という背景のもとで形成されたことを示した。 以上の研究を進めるうえで、研究計画にしたがって英国・ケンブリッジ大学に滞在し、現地の科学史家との意見交換および当地の図書館史料の調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で予定していた研究対象の分析をすべて行うことができたわけではないものの、前項で述べたように当初の計画にはなかった広がりを持つ研究を行うことができたため。また当初の計画にしたがって研究に必要となる資料調査と意見交換のための英国滞在を実行することもできたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後の主要課題となるのは、1630年代から50年代にかけてのベイコンの思想をめぐる多様な議論と、その結果としてのベイコン主義の形成の過程を明らかにすることである。加えて、これまでの研究で新たに注目する必要性が明らかになった生命観と医学をめぐる問題にも引き続き取り組む必要があるだろう。
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