研究概要 |
研究の目的は、自閉症スペクトラム障害(ASD)傾向のある高校生(ASD学生)に教師が適切に支援や指導することを可能にするために、教師向けの心理教育プログラムを開発することである。国内外での同様の先行研究では、教師向けの研修会をすることで教師のストレスや発達障害の生徒の行動上の問題が軽減することが報告されてきた。しかし、研修会の目的は教師の発達障害に関する知識を増やすことであるが、知識量については客観的に測定された研究は見当たらなかった。つまり、教師の知識が高まったことによる効果や、どのような内容の研修会をすることが教師や生徒にとって有益であるのかは明らかになっていない。このような問題を解決するために、まずはASDの障害特性についての理解度を測定するための自閉症スペクトラム障害理解度チェックリスト(CLAS ; 酒井他, 投稿中)を開発した。 このCLASを用いた研究を行い、ASD学生を担任する高等学校教師においては、教師のASD理解度と教師効力感に有意な正の相関(ρ=.38, p<.01)、応用行動分析(ABA)理解度と教師の心理的ストレス反応に有意な負の相関(ρ=-.28, p<.05)があることを明らかにした(酒井他, 2012)。また、ABA理解度の高い教師のクラスに在籍するASD学生の精神的健康状態が、ABA理解度の低い教師のクラスに在籍するASD学生の精神的健康状態に比べ有意に良好であることを明らかにした(酒井他, 2012)。しかし、高等学校の種別を考慮に入れると、これまでの研究結果に基づいて心理教育プログラムの内容を決定するには、フィールドワーク及びデータが不十分であったため、今年度はフィールドワークを中心に行ってきた。 教師とASD生徒の両方に有益であることが示された内容で構成された心理教育プログラムは、特別支援教育の推進において不可欠とされている「教師の理解」を確実に高めると同時に、ASD生徒への適切な関わり方を取得可能にするという非常に重要な役割を担う。
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