研究概要 |
まず、本研究の実験状況を簡単に説明する。標的に250MeV/uの重陽子を入射し、(d,3He)反応を起こす。反応で出てきた粒子はRIBFのスペクトロメータであるBigRIPsを通り、焦点面まで到達する。その粒子に対し、シンチレータで識別し、MWDCで軌跡の測定を行う。分散整合が完全に実現していれば、基本的に焦点面の位置のみから反応のQ値を求めることができるので、それをもとに解析を行う(K.Itahashi et al., RIBF Proposal RIBF-027(2006))。 2012年度に行った研究活動は、主に以下の3点である。 (i)加速器を使ったマシンスタディ (ii)2010年度に行ったパイロット実験の解析 (iii)次回実験に向けた準備 2012年度は、まず4月に(i)加速器を使ったマシンスタディを行った。このマシンスタディは主に私が主導で行った。マシンスタディの目的は本研究の為に開発された新しいイオン輸送系の焦点面でのアクセプタンス及びディスパージョンの測定であった。また、イオン輸送系のさらなる開発として、6重極磁石を使ったイオン輸送系のテストも行った。このマシンスタディの結果については、日本物理学会第67回秋季学会12pSL-11「(d,3He)反応を用いたπ中間子原子の精密分光:Be(Ol8,014)反応を用いたマシンスタディ」などで報告している。 (ii)については、2011年度までに検出器の解析を行い、粒子の同定及びMWDCの信号からの粒子の軌跡の再構成を行った。さらにそこから運動量スペクトルを導出し、2010年の実験においてパイオンの深い束縛状態の観測に成功していることを確認している。2012年度はさらにマシンスタディの結果などを踏まえ2011年に得られた運動量スペクトルの精緻な較正を行った。また、エネルギー較正用のピークに補正を加えるためにコンピュータシミュレーションを行い、比較をすることで較正の精度を向上させた。 (iii)については、前回実験で用いたプラスチックシンチレータを改良したものを新たに作成した。さらに前回の実験では標的上での焦点の調整が非常に難しかったため、調整手順を新たに考案し、その実現可能性を見積もった。これらの改善点などについては日本物理学会第68回春季学会27aHC-13「(d,3He)反応を用いたπ中間子原子の精密分光(8)」で報告している。
|