研究課題
スピンクロスオーバー(SCO)現象は単分子由来の現象であるが、熱ヒステリシス発現はSCOサイト間の協同的相互作用に大きく支配される。SCO鉄(II)錯体では熱ヒステリシスを伴った急激なスピン転移を発現する例が多数報告されているが、鉄(III)錯体系では一般的に緩やかなスピン転移を示し、熱ヒステリシス発現の報告は数例しかない。本研究は、サレン型シッフ塩基四座配位子とイミダゾールからなる鉄(III)錯体を合成し、分子間水素結合に基づく集積構造を有し、熱ヒステリシスを発現するSCO錯体の合成を目的にしている。既にこのモデル錯体として、水素結合によって組織化した一次元構造をもつ鉄(III)錯体[Fe(Him)2(hapen)]AsF6を合成し、この錯体は鉄(III)系では稀な熱ヒステリシスをもつ急激なスピン転移を示すことを報告している。本年度は、配位子に置換基を導入した新たな鉄(III)錯体を合成し、水素結合による集積構造の次元性とSCO挙動の相関解明を目的とした研究を実施した。この研究に適した化合物群として、結晶中で孤立SCO分子系をもつ錯体から、水素結合組織化二核構造や一次元構造をもつ錯体を合成した。いずれの化合物も共通してN4O2型の六配位八面体構造をとり、エタノール溶液中では鉄(III)錯体特有のサーモクロミズムを示した。磁化率測定の結果、固体状態では孤立SCO分子系をもつ鉄(III)錯体はスピン転移を示さず、二核構造体は緩やかなスピン転移を示した。さらに一次元構造体はより急峻なスピン転移を示し、わずかに熱ヒステリシスも観測された。この結果は、水素結合による協同的相互作用によって急激なスピン転移と熱ヒステリシスが発現したことを示唆している。本研究は、熱ヒステリシスを獲得するのに要求される新しい分子設計指針を与えた。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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