研究課題/領域番号 |
12J08593
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 創祐 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 熱力学 / 熱力学二法則 / 情報流れ / Bayesian network / 統力学基礎論 / シグナル伝達 / 大腸菌走化性 / 適応 |
研究概要 |
フィードバック制御による生体分子などを含む一般の熱機関の作成のために本年度は、(I)フィードバック制御に限らない一般の複雑な情報交換や相互作用する系で情報流れと熱力学第二法則の拡張である、部分系における熱力学の研究を行い、(II)大腸菌走化性などの生体内シグナル伝達系に関する議論を行った。 (I)については、分子モーターなどの生体系や化学反応系や相互作用するコロイド粒子系などに適用可能な一般法則を導出することに成功した。主に次の3つを明らかにした。 ・複雑な情報交換や相互作用する系の間で、「情報流れ」で特徴付けられる熱力学第二法則のような不等式や、今まで知られていた非平衡関係式の「情報」バージョンを一般に構築可能であること。 ・物理で現れるような複雑な相互作用は全て、ベイジアンネットワークと呼ばれるグラフ理論を用いることで数学的に表現が可能であり、ベイジアンネットワークの用語で熱力学を記述したときに自然と「情報」と熱力学が結びつき、視覚的にも理解できるということ。 ・ベイジアンネットワーク上で「情報」の熱力学を一般に構築可能であり、情報交換や情報の輸送と結びついた新しい法則を作れるということ. (II)については、大腸菌の走化性など、適応のあるシグナル伝達モデルをLangevin方程式を用いて解析し、情報の流れとシグナル伝達におけるロバストさの関係が、(I)で構築された部分系熱力学で議論可能なことを明らかにした。ここでできたシグナル伝達理論は、従来の情報理論でカバーできていない部分にも適用可能であり、生体内の情報理論を熱力学の一種として定式化できたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述(I)のベイジアンネットワークの研究により、限定的なフィードバック制御の議論を超えてより一般的な法則を導出したあと、その適用範囲の広さを(II)で確かめた。また(I)の研究に関してはPhys. Rev. Lett. に論文を出版できた。 現在(II)のような、どんなセットアップでもく(I)の研究手法が使えそうである傍証を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
ベイジアンネットワークの理論(I)の完成度を高めるのと、(II)のような生体内を含むすべての物理系を網羅するような基礎理論を構成してゆく。そしてその基礎理論を実験的に確かめてゆく。
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