研究課題
これまでにCHIP-seqを用いて低酸素下における転写因子HIF1の結合部位を網羅的に解析した。その結果、HIF1は従来知られていた転写開始点に結合するだけでなく、遺伝子間領域すなわちintergeneregionにも数多く結合していることが明らかとなった。そこで、ピストン修飾の様々なマークのうち、私はH3K27acに着目した。H3K27acはH3K4me1と同様に遺伝子領域の中で特にエンハンサー領域(intergene region)に結合することが知られている。そこで、HUVECを正常酸素分圧と低酸素分圧の両方で培養し、各条件におけるヒストンエンハンサーマークH3K27acのChIP-seqを行った。その結果、SLC2A3(solute carrier family 2A3 : GLUT3 : glucosetransporter 3)の領域においては、転写開始点とその上流24kb、および35kbの領域すなわちHIF1の結合部位と重なる部位に結合がみられた。そこで、ゲノムワイドなH3K27acの結合数を正常酸素分圧下および低酸素分圧下で数えたところ、低酸素分圧下の結合数が若干多かったものの、ほぼ同じ部位に結合がみられた。そこで、この結果を田F1の結合部位と比較してみたところ、低酸素分圧下ではH3K27acの結合が増加する領域が多く見られた。このことはHIF1が低酸素分圧下で多く結合し、それはH3K27acが示唆するエンハンサー領域と重なっていることを示していた。すなわちHIF1は低酸素分圧下でエンハンサーと同じ領域に結合しその役割を果たすことが示された。そこで、次にHIF1によって発現を制御されるピストン修飾酵素が低酸素でどのような役割を果たしているのかを明らかにするため、ピストン修飾酵素のうちHIF1の下流遺伝子として知られるKDM3A(LysiBe(K)-specific demethylase 3A ; JMID1a : jumonji-domain containing 1a)に着目した。KDM3AはHUVECにおいても低酸素下でHIF1の結合が転写開始点にみられる下瀧伝子である。KDM3Aが低酸素下でどのような遺伝子を制御し、HIF1と関わっているのかを今後さらに明らかにしていきたいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
特別研究員三村維真理は低酸素における転写因子HIF1の結合部位を高速シークエンサーとクロマチン免疫沈降を組み合わせたChlP-seqにより解析し、3C(chromatin conformational capture)法を用いてHIF-1が低酸素下におけるクロマチン立体構造の変化に関与することを明らかにした。その成果は国内の学会、研究会はもちろんのこと、国外での学会でも精力的に発表し、外部の研究者と積極的なディスカッションを行っている。さらに研究会での発表は最優秀演題賞に選出されるなどの成果を収めていることからおおむね順調に進展していると考えられる。
HIF1の下流遺伝子として知られるピストン修飾酵素KDM3Aが低酸素下でどのような役割を果たしているのかを明らかにするため、KDM3A抗体を用いてクロマチン免疫沈降を行い、高速シークエンサーを使ってChlP-seqを行うことで網羅的にKDM3Aの結合部位を明らかにしたい。さらにこれまでの研究で申請者はKDM3Aをノックダウンした際に発現変動しなくなる遺伝子群から下流遺伝子群を同定しており、それらの遺伝子にKDM3Aが結合するのかどうかを調べている。また、HIF1とKDM3Aがどのような相互作用を持つのか、特に低酸素刺激下でそれら2つの因子が働くメカニズムを今後明らかにしたい。
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American Journal of Pathology
巻: (in press)
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PMID:22783727[PubMed-indexed for MEDLINE]
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