研究課題
特別研究員三村維真理は、これまで低酸素下におけるHIF1を介した転写メカニズムを明らかにするため、ChIP(クロマチン免疫沈降)と高速シークエンサーを組み合わせてHIF1の結合部位を網羅的に解析した。さらに今年度は、低酸素下で発現が上昇するヒストン脱メチル化酵素KDM3A (lysine-specific demethylase 3A)の低酸素条件下での役割について検討した。HIF1の結合部位をChIP-seqの結果およびChlP-PCRにより確認したところ、HIF1はKDM3Aのプロモーター領域に結合していることが明らかとなった。さらに、HIF1をsiRNAによりノックダウンするとKDM3Aの発現は低酸素下において減少することから、KDM3AはHIF1が結合することによって転写制御されている下流遺伝子の一つであると考えられた。また、KDM3AをsiRNAによりノックダウンしたときに低酸素刺激で発現上昇がみられなくなる遺伝子群すなわちKDM3Aの下流遺伝子群とHIF1の下流遺伝子群を比較したところ、オーバーラップしている遣伝子群を同定した。その中でGLUT3 (glucose transporter 3)は、HIF1がプロモーター領域と、さらに35kb上流の領域に正常酸素分圧下で結合しており、低酸素分圧下ではさらにプロモーター領域から24kb上流の領域にも結合していた。そこで、これらGLUT3のHIF1結合領域にKDM3Aが結合しているかどうかをChIP-PCRにより調べたところ、低酸素下においてのみKDM3Aがリクルートされることが分かった。さらにHIF1をsiRNAによりノックダウンすると、KDM3Aはリクルートされないことが明らかとなった。すなわちKDM3AはHIF1と共に下流遺伝子のHIF1結合部位近傍にリクルートされてその発現を制御すると考えられた。すなわちKDM3AはHIF1と協調して双方の下流遺伝子の発現を制御している分子メカニズムを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
特別研究員三村維真理は高速シークエンサーによる網羅的なエピゲノム解析およびピストン修飾酵素の役割の解明に取り組み、その成果を国内の学会や研究会で発表している。2013年10月から2014年1月まで産休および育児休暇を取得したが、2月より研究準備支援期間として復帰し、平成26年度4月以降は通常どおりの研究活動に復帰していることから達成度はおおむね順調である。
ヒストン脱メチル化酵素KDM3AがHIF1と同じ部位にリクルートされたあと、どのような働きをしているのか、さらにGLUT3以外のHIF1とKDM3Aの下流遺伝子群の発現制御においても同様の働きをしているのかどうかを今後明らかにしたいと考えている。
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