研究課題
超伝導転移温度が40K程度に達するフラーレン超伝導体のCs_3C_<60>は常圧で絶縁体的性質を示し、電子相関によるMott絶縁体が実現していると考えられる。この系はフラーレン分子の3重縮退したLUMO軌道に3つの電子が詰まったハーフフィリングの系であるため、クーロン相互作用がもたらす正のフント結合があれば、S=3/2の高スピン状態をとると考えられる。しかし、実験的にはS=1/2の低スピン状態が観測されている。本年度は、昨年度に開発した電子と格子がカップルした系に対する低エネルギー有効模型導出の方法論を使って、フラーレン超伝導体に対して、フォノンを介した電子間の交換相互作用の大きさを見積もった。すると、その静的部分が~-0.05 eVであると見積もられ、これはクーロン相互作用による交換相互作用(~0.035 eV)よりも絶対値が大きいことがわかった。この結果、この系では有効的に負のフント結合が存在することが初めて第一原理的に示された。この負のフント結合が低スピン状態をもたらすと考えられる。また、本年度はそれに加え、得られた有効模型解析に用いる動的平均場理論のコードの整備を行った。そのコードを用い、2次元2軌道ハバード模型の4サイトクラスターを用いた金属絶縁体転移を調べた。この計算は多軌道のクラスター動的平均場理論において、初めてスピンフリップ項やペアホッピング項などの密度型ではない交換相互作用を取り入れた計算となっている。得られた第一原理有効模型をもとに動的平均場理論を用いて、超伝導相関関数などの2体の量を計算することができるようになれば、フラーレン超伝導体の超伝導発現機構における電子間相互作用と電子格子相互作用の役割を解明することができると期待される。
2: おおむね順調に進展している
本年度は電子間相互作用に加え電子格子相互作用が入った模型を解析するための動的平均場理論のコードの開発に着手した。これに加え、超伝導相への不安定性を議論するために相関関数を動的平均場理論の枠内で計算できるようにコードを拡張中である。すでに求めている第一原理的有効模型をこの拡張したコードで解析することにより、フラーレン超伝導体の超伝導機構に体する電子間相互作用と電子格子相互作用の寄与を第一原理的に解明することが可能になると考えられる。この進行度は当初の計画通りであり、②の評価が妥当である。
フラーレン超伝導体の低エネルギー有効模型を第一原理的に導出し、それを解析することで超伝導機構の解明を目指しているが、低エネルギー有効模型導出と模型解析に使う動的平均場理論のコードの整備も順調に進んでいる。よって、あと残された課題は実際に得られた模型を解析し、超伝導機構を議論することである。この解析は計算時間のかかる重い計算になるが、物性研や理化学研究所のスパコンを使えば、実行可能である。
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Physical Review Letters
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