当年度は、平安時代の和文・漢文訓読文との関係から、変体漢文の特徴・性格を解明することを主たるテーマとした。前年度までの研究により、「文体間共通語」(和文と漢文訓読文との双方で用いられるが、その語義・用法に両者で相違のある語)の調査からは、変体漢文の言語は漢文訓読文よりも和文と共通する部分が大きいことが示された。当年度はこの「変体漢文における和文性」の内実について論究を深めた。 本年度はまず第107回 国語語彙史研究会にて口頭発表を行った。これは、上記「文体間共通語」に基づく2012年度からの研究成果を総括し、変体漢文に全体的に見られる性格を確認した上で、更に資料間で見られる性格の相違についても指摘したものである。具体的には、変体漢文が用いられる記録(日記類)・文書・典籍(著作物)の3ジャンルの内、典籍では軍記物の『将門記』、仏教説話の『法華経験記』には、他典籍と較べて漢文訓読語的性格が強いこと、文書では上申文書である「解(ゲ)」に漢文訓読語的要素と日常語的要素の両方が観察されることを指摘した。これは、質疑応答などにより得られた知見を盛り込んで、論文の形で2015年度に投稿・発表予定である。 また2015年3月には『日本語学論集』(東京大学国語研究室)に論文を公表した。これは、上記の口頭発表内容の一部を取り出して加筆修正したものであり、「文体間共通語」の新たな実例を提示したものであり、前年度までの研究に直接連なるものである。 こうした平安時代の変体漢文の総体を捉えようとする研究に加えて、個別的な調査・研究も行なった。漢字専用文である変体漢文においては訓法が確定できない字句が現在も少なからず存する。接尾辞用法の「等(ラ)」を取り上げ、変体漢文と漢文訓読文の用例を中心に検討を進めた。これについては2015年5月の訓点語学会での発表が決定している。
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