多細胞からなる生物がその生体を維持するには、新陳代謝や障害により失われた部分を適切に回復する必要がある。肝臓は解毒を担う器官であるため、それ自身が種々の毒により様々な障害を受けやすいが、それに対して自身の組織を回復させ維持する能力が高い。本研究は、この肝臓を解析することで、生物が組織を回復・維持する仕組みの解明を目指している。 本研究により、肝臓はその中の幹細胞を含む管である胆管を柔軟に変形させることで、多様な障害に対応しながら組織を回復していることが分かってきている。本研究は、新規可視化法を用いて以下の三つの点について行っている。1、肝障害時に胆管の動態の制御に関わるシグナル因子の同定・機能解析 2、これらシグナル因子を発現する各種細胞の数や位置関係、発現量の変動の解析 3、組織の三次元構造と幹細胞の機能の関係の解析および、それに必要なイメージング技術の改良。 本年度は以下の成果を得た。 肝障害時の胆管の動態を制御する二つの因子が、それぞれ胆管に異なる作用を及ぼすことを定量的に示した。二つの因子はどちらも胆管の細胞の増殖を誘導するが、片方は胆管の分岐を誘導する一方で、片方は分岐を誘導せずに管を肥厚させる作用があることが示唆された。また、本研究で開発したホールマウント染色法について、既存の方法と比べ、方法論としての利点があることを明らかにした。ホールマウント免疫染色法に重要な点は、組織への抗体の透過性であり、染色の前に組織の透過処理を行なうが、この際の組織の変性の程度が少ない方が、生体の本来の状態をより反映することになる。本研究の手法は、抗体の透過性だけでなく、免疫染色における抗原性の保存性や、組織構造の保存性という点において、優れていた。さらに、ホールマウント染色により、胆管以外の組織を可視化することが可能である例として、肝臓内の抹消神経も観察した。
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