本研究は、フランス映画における演技論、演出術の展開を検討することを通じて、映画における演技や演出の特性を明らかにするとともに、その多様性を描き出すことを目的としている。演技、身体、パフォーマンスの問題は、フランスの映画研究において大きなトピックとなっているが、理論が先行し実証が疎かになっている感が否めない。そうした状況を踏まえ、本研究は、製作資料や雑誌など資料に基づき、フランス映画における演技論の展開を具体的に浮かび上がらせることを目指す。 本年度は、研究計画書に書いた通り、主に第二次大戦後のフランス映画について資料収集、作品分析、文献講読を行うとともに、これまでの研究成果の総括を行った。戦後のフランス映画については、しばしばヌーヴェル・ヴァーグ以後における俳優のあり方の変化が強調されてきた。本研究では、前年度までに行ってきた戦前のフランス映画における演技論の調査を踏まえ、ヌーヴェル・ヴァーグ以後の作家の試みやそれに対する批評的言説を再検討することで、戦前と戦後のあいだにある断絶と連続性を具体的に浮かび上がらせていった。そうした作業を通じて、これまでの成果を位置づけ直し、フランス映画における演技論の歴史について一定の展望を得ることができた。 基礎的な研究に注力した結果、年度内の成果発表に至らなかったことは遺憾ではあるが、今後の発表のために十分な成果を得ることができたと考える。引き続き、演技論の観点からフランス映画史を読み直す作業を継続していきたい。
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