研究概要 |
1.コラゲナーゼ微量注入によるマウス脳内出血モデルを用いて、有効薬物のスクリーニングを行った。 抗炎症薬であるデキサメタゾン(1mg/kg)は脳内出血惹起2時間後より1日1回腹腔内投与する事で脳内出血によるマウスの致死率を抑制した。しかしながら、脳内出血に伴う運動機能障害は改善されなかった。同様に、抗酸化薬であるエダラボン(3mg/kg)は脳内出血惹起3時間後より1日1回静脈内投与する事で脳内出血によるマウスの致死率を抑制した。しかしながら、脳内出血に伴う運動機能障害は改善されなかった。一方、レチノイド受容体作動薬であるAm80(5mg/kg)は脳内出血惹起2時間後より1日1回経口投与する事で運動機能障害を改善した。しかしながら、脳内出血に伴う致死率は改善されなかった。免疫抑制剤であるシクロスポリンA(10mg/kg)やNMDA受容体阻害薬MK801(1mg/kg)や浸透圧調節薬の濃グリセリン(200μg/25g)は脳内出血に伴うマウスの致死率及び運動機能障害を改善しなかった。これらの結果から、デキサメタゾンおよびエダラボンが脳内出血に伴う致死率を改善する薬物であること、レチノイド受容体作動薬Am80が運動機能障害を改善する薬物である事が示唆された。 2.脳内出血に伴う急性期炎症反応について検討を行った。IL-1β等の諸種サイトカイン・ケモカイン類の発現変化を経時間的に検討したところ、脳内出血後6時間で発現ピークに達する事を見出した。さらに、それらの発現変化に対するデキサメタゾンおよびAm80の作用を検討したところ、脳内出血惹起6時間後におけるデキサメタゾンはIL-1β,TNFα,IL-6の発現を抑制し、Am80はIL-1β,IL-6,CXCL2の発現を抑制した。一方で、デキサメタゾン及びAm80は脳内出血24時間後おけるこれらのサイトカインの発現を抑制しなかった。これらの結果から、デキサメタゾンとAm80は脳内出血急性期の炎症反応に対して異なる作用を示す事が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1,デキサメタゾン及びAm80の炎症反応に対する作用の違いから作用機序を検討する。IL-1β,TNFα,IL-6,CXCL2の各種阻害剤を用いて脳内出血モデルマウスの致死率および運動機能障害に対する作用を検討する。 2,レチノイド受容体のサブタイプに着目し、出血障害後のレチノイド受容体サブタイプの発現レベルの変化を調べ、各サブタイプの発現細胞種を同定する。 3,上記の結果を踏まえ、内包障害の制御におけるレチノイド受容体の役割を明らかにするために、軸索障害の程度を免疫組織化学的に評価し、詳細な作用機序に関しては初代培養神経を用いて検討を行う。
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