研究概要 |
顕生累代を通じて水圏には多くの底生生物が生息しており,それぞれの環境に適応し,また環境と常に相互作用してきた.特に堆積物食者の底生生物にとっては,堆積物から如何にして食糧源となる有機物を摂取するかということは非常に重要な問題である.それ故様々な環境下での堆積物食者の摂食様式を比較検討することで,彼らの摂食行動が堆積環境にどのように適応しているのかということを解明できる-現世の底生生物の摂食行動は様々な観測・実験などで解明可能だが,過去の底生生物の摂食行動については生痕化石だけからしか直接的な証拠を得ることはできない. 本研究では特に,堆積物食者の糞粒の化石であるPhymatodermaという生痕化石を対象として,地球化学分析を行うことによって,従来の形態学的なアプローチからでは分かり得なかった形成生物の詳細な摂食様式を復元することに成功した.さらに,浅海堆積物と漸深海堆積物から産出するPhymatodermaの形成生物の摂食様式を上述の手法で復元・比較した結果,両者の摂食様式は,食糧源となる有機物フラックスの大きい浅海堆積物と小さい深海堆積物という環境にそれぞれ適応したものであることが分かった. 並行して,顕生代を通じた底生生物と堆積環境との相互作用の解明を目指して,事例研究の数を増やすことを試みた.具体的には,Phynatodermaとは別の生痕化石(糞粒充填型のZoophycos)のサンプリングを行った.また,生痕化石の地球化学的アプローチの有用性を検証するために,摂食様式が既知である生痕化石(Phycosiphon incertum)に対して地球化学分析を行ったほか,現生の堆積物食者(クロナマコ)やその糞粒をサンプリングして予備的な分析を行った.さらに,黒色頁岩中の生痕化石Chondritesの地球化学的分析や岩石微細組織観察などを行うことで,生痕形成が堆積物の初期続成過程に与える影響を考察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度の研究では,摂食様式が既知である生痕化石を地球化学分析することによって,生痕化石の地球化学的アプローチが形成生物の摂食様式を復元する上で非常に有効な手法であることを実証した.しかしながら,そのアプローチのさらなる検証のために現生の堆積物食者とその糞粒をサンプリングしたが,それらの分析・解析は十分に取り組むことができなかった.また,計生代を通じた底生生物と堆積環境の相互作用の解明を目指して事例研究の数を増やすことを試みたが,当該年度中には生痕化石の追加サンプリングのみに留まってしまい,それを分析・解析することはできなかった.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は,当該年度にサンプリングした現生堆積物食者の糞粒や,生痕化石について,従来の研究と同様のアプローチで研究を行う.さらに,本研究を時空間的に広げるためにも,さらなる生痕化石のサンプリング・分析をすることが急務である.以上を基に,得られた結果を総合的に解釈し,顕生代を通じた底生生物と環境の相互作用について考察していくことが望まれる.
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