研究概要 |
顕生代の地球表層環境変動に対する底生生物の応答パターンを評価するために, Phymatodermaという生痕化石を扱った. 特に底生生物の餌となりうる植物プランクトンの多様化が底生生物にどのような影響を与えたのか, という着眼で研究を行った. Phymatodermaは海洋無脊椎動物の糞粒から構成されるので, 上述の課題を解明するのに最適な研究材料である. 特に平成25年度は, 顕生代の様々な時代から産出するPhymatodermaの標本を野外調査を通じて採取, あるいは博物館に収蔵されている標本を入手し, 生痕化石のサイズ測定(=生痕形成生物の体サイズを反映)や糞粒中の微化石の観察(生痕形成生物が摂食したものを反映)を行った. 具体的にはペルム紀~鮮新世の堆積物中から産出するPhymatodermaについて野外あるいは博物館調査を行った. 平成24年度までに既に採取していたPhymatodermaの標本も合わせて, 今年度調査した標本のサイズ分布を計測した. また, 一部の標本については糞粒中の微化石の観察も行った. サイズについての結果だが, 自身で計測したデータに加えて既に他の論文で報告されているPhymatodermaについてのサイズデータも利用したところ, Phymatodermaのサイズはペルム紀(最古の記録)~第四紀にかけて増大していることがわかった. 特に, 白亜紀後期と新生代に急激なサイズの増加が見られた. また, 一部の標本の微化石観察の結果だが, 中生代ジュラ紀のPhymatoderma中には主にココリスや石灰質渦鞭毛藻の化石が豊富に認識できたのに対して, 新生代鮮新世のPhymatodermaの中には, 珪藻・浮遊性有孔虫・ココリスが観察された. Phyinatoderma形成生物のサイズの大型化は, 中生代以降に起きた海洋植物プランクトン群集の多様化に伴って底生生物の利用可能な餌資源が増大した結果であると解釈される. 糞粒中に見られる微化石が中生代と新生代で異なることも, この解釈を支持する.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に野外調査あるいは博物館調査で得たPhymatodermaの標本について, 平成25年度はその一部しか詳細な観察を行うことができなかった. 特に, Phymatoderma中の微化石の観察ができなかったものが多い. したがって今後は, 既に入手しているPhymatoderma標本のより詳細な観察を行い, それらの結果を踏まえて研究をまとめていくことが必要である. さらに他の産地から産出するPhymatodermaについても可能な限り標本を入手し, これまでに得ている標本と合わせて研究を進めていくことで, より一般的な見解を得ていくことも必要である.
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