研究課題
本研究はT細胞シグナル伝達経路の細胞刺激強度の変化による応答を明らかにし、T細胞シグナル伝達活性化の動態と分子機構を分子システムとして定量的に解明することを目的としている。本年度は当初の研究計画に従い、複数色の蛍光で複数種類のシグナル分子を安定発現するT細胞株の樹立を行った。これまで導入した遺伝子を目的の発現量に調整する点で困難があったが、今回ゲノム上の疑似組換え配列を利用した相同組換えによる遺伝子導入と、導入位置の違いにより発現量が異なる性質を利用して、1分子観察に最適な発現量のT細胞株を獲得する系の構築に成功した。また、3色1分子観察結果の解析及び、脂質二重膜を用いた刺激観察系の改良も進めた。Quantum Dot修飾した抗体で標識したCD3εとCD45、およびGFPで標識したCD3ζを同時観察した結果から、各分子の拡散係数やT細胞活性化時に形成するミクロクラスターへの局在を1分子レベルで定量解析し、その結果を国際会議において発表した。刺激観察系は、非刺激条件下でT細胞を1分子観察できる系へ展開した。T細胞受容体タンパク質をGFP融合タンパク質に置き換えたT細胞株を用いて、非刺激条件下の休止状態におけるT細胞表面を蛍光1分子観察したところ、受容体は休止状態においてすでに数分子のクラスターとして存在していることを見出した。GFP1分子の蛍光強度からクラスターに含まれる分子数を定量し、国内学会において発表した。この結果は、従来は受容体単体の機能や活性化後のミクロクラスターの動態解析が中心であった初期T細胞活性化の研究において、活性化前の受容体の動態に注目し、その高次構造の変化やその機能解析の道を開いた点において重要であると考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は当初の計画であった多色蛍光標識した細胞株樹立系の構築に加えて、多色1分子観察結果の解析及び刺激観察系の改良も計画に先行して行った。その過程で休止状態における受容体のクラスターという新たな見地を見出し、1分子観察の利点を生かした定量解析も行った点を踏まえると、当初の計画以上に進展していると考えられる。
今後は、構築したT細胞株の樹立系を用いて、T細胞活性化シグナル伝達分子の多色同時1分子観察及びその解析を進める予定である。特に、T細胞受容体の構成サブユニットと下流シグナル分子に対象を絞り、改良した刺激観察系を使用して刺激前後における受容体のクラスターの解析、及び下流シグナル分子の1分子動態を定量解析する予定である。
すべて 2012
すべて 学会発表 (6件)