研究課題/領域番号 |
12J08847
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川瀬 和也 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ヘーゲル / 行為の哲学 / 『大論理学』 |
研究概要 |
ヘーゲルの実践哲学を研究するにあたり、まず過去に研究してきたヘーゲルの目的論についての研究に決着を付けることを目指した。具体的には、目的達成における無限後退の議論を、心身二元論の不都合を指摘した箇所として理解する解釈を提示した。具体的には、ヘーゲルの議論が、心と身体を別々の実体だと考えてしまうと、行為において前者から後者へとはたらく意志の作用が無限後退に陥る、という、現代広く受け入れられている議論につながるものだと論じた。 ヘーゲルの目的論は、とくにルカーチの影響で、労働の概念と結びつけて解釈されることが多かった。私の研究は、この定説を覆すものである。また、脳科学やAI研究との関わりで現代改めて注目を集めている心身問題に、ヘーゲルの議論を通じてアプローチする可能性を示した。 以上の目的論についての考察を深める中で、ヘーゲルの実践哲学が形而上学に、そしてその形而上学が彼の認識論に基づいているということに気づくに至った。このため、計画を変更し、まずヘーゲルの認識論の研究へと向かった。 この研究によって明らかになったもっとも重要な点は、ヘーゲルが概念と独立に存在する経験的対象を認めないということである。ヘーゲルは、カントが『純粋理性批判』で展開した直観と概念の二元論を批判しているが、これはカントにおいては直観の多様が、概念と独立に存在するものとみなされているためである。これに対してヘーゲルは、概念が対象に合わせて変わるのではなく、対象に概念の構造が反映され、両者が統一されるのだと考えていた。具体的には、白や黒、また犬や猫といった諸概念との連関で、目の前の白い犬を理解することによって始めて認識がするのだ、ということになる。 認識論研究は目下進行中であるが、今後継続していくことで、未だその主題についてすら定説のない『大論理学』を、認識論として包括的に解釈する道が開けるはずである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実践哲学の基礎としての行為と目的論についての研究を進める中で、形而上学と認識論の難問を避けて通ることができないことが明らかになったため。ヘーゲルの認識論がどのようなものであったかという点の解明は、当初計画していた行為の社会性の問題の解明にとっても前提となるものである。このため、当初の予定は遅れている一方、それを基礎づける作業は当初の予定を超えて進展している状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
上記の事情に鑑みて、研究計画を変更し、認識論についての研究を集中的に進めることを考えている。この研究を進めることなしに実践哲学の研究を急いでも、基礎を欠いた研究となり、多くの成果は得られないと考えるに至ったためである。認識論についての研究を踏まえ、実践哲学を根本から基礎づけることを目指す。
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