研究課題/領域番号 |
12J08850
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前田 啓明 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 水素終端化シリコン / 電子移動速度定数 / 逐次的錯形成法 / 半導体 / 自己祖組織化 |
研究概要 |
分子を用いた電子デバイスの実現に向けて多様な電極修飾法、および作成した構造体の物性評価が行われてきている。分子電子素子を構築するにあたり電子を高速かつ効率よく輸送する分子構造が望ましい。電極-分子接合部位は電子輸送に強く影響する部位であると考えられ、機能性分子を電極表面に固定した際の分子構造が電子移動に与える影響に関する知見は、分子電子素子の実現に寄与するものであると考えられる。本研究では、代表的な半導体である水素終端化シリコン電極上にSi-C結合またはSi-O-C結合を介して固定されるテルピリジン配位子を、それぞれフェニレン架橋を有するものと持たないもの2種類ずつ用いて表面修飾を行い、逐次的錯形成法によりビス(テルピリジン)鉄錯体を構築した。作成した4種類のサンプルについて、目的の構造体が得られていることをサイクリックボルタンメトリー、X線光電子分光法、原子間力顕微鏡により確認した。これらのサンプルについて電極-錯体間の電子移動速度をクロノアンペロメトリー測定法を用いて算出したところ、結合様式にかかわらずフェニレン架橋構造を持ったテルピリジン配位子で電極と繋がれた錯体の方が、電極-錯体間の距離が長いにも関わらず電子移動速度定数が大きい傾向が見られた。分子軌道計算の観点から考察を試みたところ、フェニレン架橋構造を有するものは酸化還元反応に関わるHOMOと電子輸送に関わると考えられるHOMO-3のエネルギー差が、架橋構造がない場合よりも小さいことが示された。したがって、より電子輸送に優位な状態であったと考えられる。また、結合様式による差を比較するとSi-O-C結合を介したものの方が電子移動速度定数が若干大きくなる傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画ではシリコン電極上に多層錯体ワイヤを構築し、その末端に酸化還元活性配位子を導入することにより、錯体ワイヤの長距離電子輸送能を評価する計画であった。しかし、実験中に表面固定用配位子が電子移動速度に強く影響していることを示唆する結果が得られたために、研究計画を変更しこの点について詳細に調査を行った。この成果についてChem. Eur. J誌にて発表するに至ったため研究は順調に進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、シリコン電極上における錯体ワイヤを介した末端酸化還元活性種からの電子輸送挙動について調査を行う予定である。現在までに、複数種の末端酸化還元活性種を用いて、その電気化学的挙動を観測してきているが、いずれも異なった電気化学的挙動を示している。この理由についてシリコンのバンド構造、錯体ワイヤのエネルギー準位、および末端酸化還元活性種のエネルギー準位を関連付けた考察を試みる。
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