研究課題/領域番号 |
12J08851
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
桐谷 慧 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | デリダ / 時間 / 瞬間 / アポリア / 贈与 |
研究概要 |
本研究は、フランスの哲学者であるジャック・デリダの思想、とりわけ彼の時間に関する議論を、「瞬間」という概念に着目することにより解明することを主な目的としている。 本年度の研究はまず、デリダのテクストの内在的な読解、および、それに関する二次文献の収集および精査が主な内容となった。そのような調査を通して、60~70年代のデリダの著作においては主にフッサールの時間論との関わりなどから言及されていた「瞬間」という観念が、いかにして80年代から90年代の著作において、「贈与」や「アポリア」という問題と関連付けられることとなったのかを検討した。その結果、哲学史においては、しばしば現前的な「時間のアトム」として考えられてきた「瞬間」という概念が、デリダにおいては、時間の逆説やアポリアとして捉えられているということが明らかとなった。このことは、デリダにおいて瞬間性とは、時間の現前的要素でも、「異なる別の時間性」でもないということを意味していると考えられる。以上の調査結果は、東京大学におけるワークショップにて一部口頭発表された。またこの結論は、来年度に予定している、ハイデガーやキルケゴール等における「瞬間」概念との比較という作業のための出発点となるであろう。 本研究は時間と瞬間の問題をより深く検討するため、以上のような作業と並行して、『弔鐘』などのデリダのヘーゲル読解の研究も進めた。時間の問題に関するデリダとヘーゲルとの対比は、これまであまり行われてこなかったが、デリダにとってヘーゲルはある意味で時間の最も徹底した思索者と考えられており、この調査の重要性は明らかである。本研究はとりわけ、『弔鐘』の後半に現れる贈与と円環的な運動との関連を論じた箇所に注目し、ヘーゲル的な円環へと止揚される時間へと抵抗するような瞬間性という問題を見出した。この点に関する調査は、来年度以降も継続して行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた、デリダの著作を総体的に検討し、その「瞬間」という概念を明らかにするという作業は、ほぼ予定通りに遂行された。その点については、順調に研究は進展していると考えられる。しかしながら、昨年度中にその成果を論文にて発表することができなかった点は問題であったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度に関しては、まずは当初の予定通り、「瞬間」の概念に関して、デリダとキルケゴールやハイデガー等の思想を比較する作業を行う。キルケゴールやハイデガーに関する文献を精査し、それを今年度の研究成果と総合することによって、以上の作業を遂行する予定である。それと並行して、デリダとヘーゲルの時間論に関する関係性の調査も継続して行っていく。また、昨年度は論文の形で研究成果を発表できなかったため、昨年度の成果も含めて、今年度は論文として研究を総括することを予定している。
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