研究課題/領域番号 |
12J08887
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
芝 真里 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 家族形成移民 / 国際養子縁組 / 国際養子自助組織 / アイデンティティの再定義 / マイノリティ / 媒介者 / 多文化主義 / 共生社会 |
研究概要 |
本研究では、「家族形成移民」たちを「共生社会」実現への主体的な媒介者として位置づけ、「共生」へのポジティブな展望を導出することを目的とする。そこでは移民を受け入れる社会において頻繁に主張される「多文化主義に基づく異文化理解」と「共生への実践」との関係について改めて検討する。そして本研究では、国際養子を中心とする「家族形成移民」に着目する。その際、これまでのマジョリティによる主導やマイノリティによる挑戦の諸相を取り上げるのではなく、さまざまな「実践」のなかで、国際養子たちがマジョリティとマイノリティとの間を媒介しうる存在である側面に光を当てる。まず、自己のうちに「他者性」を見出しつつ「他者性との境界線上にいる」という彼らの立ち位置を確認し、さらに彼らのアイデンティティの再定義が、誰と、どのような相互行為のもとでなされるのかについて明らかにする。そして次に、国際養子たちが自己の再定義を行う過程で、パーソナル・ローカル・ナショナル・トランスナショナルに、しかもマジョリティや他のマイノリティとも連帯していく様相を捉えつつ、主に彼らの形成する自助組織および関係する支援組織に着目して、彼らの存在が与えうる「共生社会の実現」への展望を探る。こうした考察は、グローバル化時代において「他者」をも包摂する社会の構成員の権利を検討する事例となるだろう。なお具体的な実証調査は、国際養子縁組の受入国である米国やスウェーデン等、そして韓国・中国・日本といった主にアジア地域における送出国側で行う。また調査対象は、養子たち自身、そして養親や彼らをとりまく人々、さらに養子たち自身が立ち上げ、現在は国境を越えて全球規模にひろがりつつあるネットワークを持つ自助組織を中心とする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は1)これまで移民研究や家族研究など申請者の研究と関連のある分野での理論の検討と整理を進めた。また実証調査として2)在スウェーデン韓国養子自助組織を対象に追加調査を行った。3)韓国にて、同国から送り出された国際養子たちを支援する組織に対して調査を行い、国際養子を含む韓国ディアスポラの帰還促進運動を支援する動きについて確認をすすめた。4)米国四都市での韓国養子自助組織調査では、欧州の養子自助組織と連携しつつも、自助組織の存在意義また韓国養子独自のアイデンティティ形成については様々な違いが認められた。なお5)以上の知見については、論文および国際学会にて研究成果として報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究が順調に進展したことを受け、今後はさらに国際養子たちが自己の再定義を行う過程でトランスナショナルに、そしてマジョリティや他のマイノリティとも連帯していく様相を実証的に捉えつつ、彼らの存在が与えうる「共生社会の実現」への展望を理論面からも探っていく。次年度には国際養子たちが世界から一同に介する会議等での参与観察を試み、本年度で得られた知見である「養子等ディアスポラの帰還促進運動」「養子独自のアイデンティティ形成に対する温度差」等が変容する様を捉える。また韓国養子にとどまらず、中国や日本などアジア諸国から送り出された国際養子、そして国際養子以外の「家族形成移民」、例えば国際結婚移住者に対しても考察し、彼らを「共生社会」実現への主体的な媒介者として位置づけること、そして「多文化主義に基づく異文化理解」と「共生への実践」との関係についてさらに理論的検討をすすめる予定である。
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