研究課題/領域番号 |
12J08932
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
増本 直子 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | シソ属植物 / 精油成分生合成 / モノテルペン化合物 / ドメインスワッピング / in vitro連続酵素反応 / リナロール / ゲラニオール / シトラール |
研究概要 |
1.シソ属植物精油成分生合成経路の解明:シソ属植物の香気には十種類以上の精油型が存在し、それぞれ精油に含まれる成分組成が異なっている。成分の多くはモノテルペン化合物であり、これらの生合成を担う酵素としてゲラニルニリン酸(GDP)を基質とするリモネン、リナロール、ゲラニオール合成酵素が既にクローニングされている。本研究では、シソ属植物由来のEST(expressed sequence tag)ライブラリーからさらなる精油成分生合成関連酵素の探索を行い、二種のアルコール酸化酵素を得た。これら二種のアルコール酸化酵素は、シソ属植物の精油成分生合成中間体であるとされるゲラニオールやペリラアルコールを基質とし、それぞれシトラールとペリラアルデヒドへ変換した。一方、シトラールはGDPからゲラニオールを経て生合成されると推測され、ゲラニオールはGDPからゲラニオール合成酵素によって合成されることが明らかとなっている。そこで、GDPを基質とし、ゲラニオール合成酵素と本研究で得られたアルコール酸化酵素を加えた試験管内での連続酵素反応を行ったところ、シトラールが生成した。また、半定量的RT-PCRの結果から、本研究のアルコール酸化酵素はシソ属植物において精油型に関係なくに発現していると考えられた。これらの酵素はゲラニオール合成酵素などと比較して基質特異性が低く、ゲラニオールやペリラアルコールなど基質となりうる化合物も多いため、シソ属植物の精油型の多様性に大きく寄与したと考えられる。 2.リナロール、ゲラニオール合成酵素の構造活性相関:シソ属植物由来のリナロール合成酵素とゲラニオール合成酵素は、ともにGDPを基質とするが、導入する水酸基の位置が異なる。これら水酸基導入の位置選択性について酵素構造上の特徴から検討したところ、とくに5つのアミノ酸が重要であることが示唆された。キメラ酵素CH12とCH13はこの5つのアミノ酸が異なるのみだが、前者はゲラニオールを後者はリナロールを生成した。これは、526番目のアミノ酸側鎖の空間配置が異なるためであると推察された。CHI2では、H526の側鎖が活性ポケット内部に張り出しており、GDPの保持や中間体の電子局在化へ関与している可能性が高いと考えられる。一方、CH13では、N526の側鎖は活性ポケットとは反対の方向に飛び出しており、リガンドとの相互作用は極めて小さいと考えられる。CH12においては5つのアミノ酸側鎖によりカルボカチオン中間体の正電荷が局在化することでゲラニオールが生成したが、CHI3ではそれらアミノ酸の影響がなくなり、中間体がより安定な第三級アリルカチオンとなることでリナロールが生成したと考えられる。ゲラニオール、リナロール両合成酵素間の5つのアミノ酸の違いは、シソ属内で保存されており、ゲラニオール合成酵素とリナロール合成酵素、およびそれらのキメラ酵素の生成物特異性は、これらのアミノ酸側鎖とリガンドとの距離に大きく依存していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではシソ属植物の精油成分生合成経路について立体制御機構を含めて明らかにすることが目的である。本年度の研究では、精油成分生合成に関与していると考えられる二種のアルコール酸化酵素のクローニングと機能発現を行った。また、試験管内での二段階の連続酵素反応を行い、植物における精油成分生合成の試験管内での再構築に関する知見を得た。さらに、GDPを基質とする二つのモノテルペン合成酵素の水酸基導入の位置選択性について酵素の構造上の特徴から検討し、位置選択性に関与していると推測されるアミノ酸領域を同定した。これらの知見は精油成分生合成経路を解明する上で非常に有益な知見であり、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
・シソ属植物由来のESTライブラリーを探索し、精油成分生合成関連酵素遺伝子のさらなる探索を行う。とくに生合成経路の各ステップのうち、水酸化やフラン環形成反応を担っていると予測されるP450を中心にクローニングと機能解析を行う。 ・クローニングしたP450と既に明らかとなっている精油成分生合成関連酵素を用いた連続反応を行い、in vitroでの精油成分生合成反応の再構築を行う。 ・さらに、シソ属植物間で精油成分生合成酵素の配列等を比較し、栽培手であるシソの成立過程に関する考察を行う。
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