研究概要 |
私が修士課程在籍時に行った研究から,葉肉組織から放出される気孔開度調節物質(葉肉シグナル)はアポプラストに存在することが明らかになっている.平成24年度は葉肉シグナル同定にむけて,以下2点のアポプラスト液成分解析手法の検討を行った. 1.純水中で表皮を洗って採取した表皮アポプラスト液から葉肉シグナルを絞り込む手法 葉肉シグナルは葉肉組織から表皮に移動して孔辺細胞に作用する物質であるため,表皮アポプラストに含まれるはずである.そこで,表皮を純水中で洗い,表皮アポプラスト液を溶出させる手法を試した.溶出させたアポプラスト液を濃縮してからCE-MSを使用して代謝産物解析を行ったところ,リンゴ酸,クエン酸,コハク酸,乳酸が相対的に多く含まれることが分かった.同様の手法を用いて表皮アポプラスト液を調製して植物ホルモン解析を行ったが,ホルモン濃度が検出限界以下であり解析できなかった.表皮を純水中で洗う際に,アポプラスト液が十分に溶出していない可能性がある. 2.葉片の表皮と剥離表皮の成分の含有量を比較して葉肉シグナルを絞り込む手法 葉肉シグナルは葉肉組織から表皮に供給される物質であるため,「剥離表皮」と「葉片の表皮」で含有量を比較すると,葉片の表皮に高濃度で含まれるはずである.気孔開口の条件である「低CO_2処理・赤色光照射」を行った後,それぞれの試料から表皮を採取し,破砕した表皮の代謝産物をCE-MSで解析した.葉片の表皮からは,剥離表皮よりもリンゴ酸,クエン酸,コハク酸,cis-アコニット酸が高濃度で検出された.したがって,これらの物質が気孔開口を誘導する葉肉シグナルの候補物質であることが示唆された.破砕した表皮の成分を分析する手法を用いれば,試料中の植物ホルモン濃度を溶出させたアポプラスト液よりも濃くすることが可能である.したがって,植物ホルモン解析等も可能な汎用性の高いアポプラスト解析手法であると期待している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CE-MSを用いたアポプラスト液成分解析に着手し,解析手法の検討とCE-MS操作の習得に多くの時間を費やしたが,いまだに解析手法を確立できていない.葉肉シグナルを含むアポプラスト液を大量に採取するための手法として,葉肉組織や単離した葉肉細胞に緩衝液中で光合成を行わせた後,葉肉シグナルを含む緩衝液を得ることを研究計画に書いていた.しかしながら,採取した緩衝液を剥離表皮に処理することを試したが,気孔開度の変化を引き起こす効果がなく失敗に終わっている.CE-MSを用いた代謝産物の網羅的解析を行えるようになったが,葉肉シグナルの候補を絞り込めたとはいえないため,研究計画の練り直しが必要である.
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今後の研究の推進方策 |
代謝産物解析には多くの試料が必要であるが,現在は小さなチェンバーに試料を1種類だけ入れ,数時閥の処理の一後,試料を1個確保する状態であり,試料の準備に大変時間がかかることが問題である.したがって,短時間に多くの代謝産物解析用試料を確保するため,大きめのチェンバーを作製する予定である.CE-MSを用いた代謝産物の網羅的解析によって,葉肉組織から表皮に供給されることが示唆された物質に関しては,表皮用緩衝液に混ぜ,剥離表皮気孔の応答を変化させる能力があるかを判定する.代謝産物の網羅解析を行えるようになったが,葉肉シグナルの指標が少ないため候補物質の絞り込みが困難な状況にある.そこで,ツユクサ以外の植物も用いて追加の生理学実験を行い,より詳細に葉肉シグナルの性質を明らかにしてから網羅解析に再挑戦する予定である.先行研究の知見に基づきシロイヌナズナの変異体を集め,変異体の気孔の応答を観察することで葉肉シグナルの同定も行う.
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