研究概要 |
●CAM植物の気孔は, 夜間に開口し, 昼間に閉鎖するといった, C3植物とは異なる特徴的な気孔開閉の日周性をとる. CAM植物でも葉肉組織による気孔開閉制御があるかを検討するため, コダカラベンケイソウ(Kalanchoedaigremontiana)を用いた解析に着手した. 明期の背軸側表皮を暗期の葉肉組織に移植, もしくは, 暗期の背軸側表皮を明期の葉肉組織に移植することで, 孔辺細胞にある概日リズムと葉肉組織のどちらが気孔開閉に対して強い制御を行っているかを検討した. 交換移植の結果から, 葉肉組織による気孔開閉制御が, 孔辺細胞の概日リズムによる制御に勝ることが示唆された. ●葉肉シグナルの同定にむけて研究を行う過程で, マルバツユクサ(Commelina bengbalensis)も実験材料として用いた. マルバツユクサは挿し木で容易に増やせるため, 遺伝的背景が同一の個体を大量に安定供給できるといった利点がある. マルバツユクサの気孔のCO_2応答を解析したところ, 赤色光照射時の気孔開口速度には匹敵しないものの, 暗所でも, 低CO_2で葉片の気孔は大きく開口し, 高CO_2で速やかに閉鎖することが観察された. 剥離表皮の気孔も, 暗所でCO_2濃度を変化させると開閉したが, 開閉の速度は葉片のものよりも遅かった. したがって, CO_2濃度に依存した気孔開閉には光に依存しない経路もあり, 葉肉組織は光に依存しない気孔開閉も誘導することが示唆された. ●24穴シャーレが入れられる大きさの, ガス組成を制御可能なチェンバーと, このチェンバー全体に光照射を行えるLED光源を作製した. これらを用いることで, 一度に大量のサンプルにCO_2濃度制御下で光照射を行えるようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ツユクサ(Commelina communis)の葉肉アポプラスト液を, 複数の手法を用いて採取した. しかしながら, 採取したアポプラスト液をツユクサ剥離表皮に処理しても気孔開口が誘導されなかったため, 採取方法の再検討が必要である. シロイヌナズナのT-DNA挿入変異体を複数購入して気孔のCO_2応答を解析することも行ったが, 野生型と異なるCO_2応答性を示さず, 葉肉シグナルの候補が得られていない.
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今後の研究の推進方策 |
葉肉シグナルの化学的性質の詳細を得るため, 葉肉組織と表皮の間に, 通過可能な分子サイズが制限された透析膜を挟んだ状態で気孔開閉を観察することで, 葉肉シグナルが高分子であるかを検討する. 透析膜の代わりに, イオン交換膜を挟んで, 気孔開閉を観察することも予定している. 青色光照射時には, 孔辺細胞の細胞膜プロトンポンプが強くリン酸化され, 活性化されることで気孔が大きく開口する. 表皮だけに赤色光を照射した場合には, ほとんど気孔開口しないが, 葉に赤色光を照射すると大きく気孔開口するため, 葉肉組織の作用によって孔辺細胞の細胞膜プロトンポンプが活性化する可能性がある. 微小pH電極を用いて, この可能性を検討することを計画している。シロイヌナズナのT-DNA挿入変異体を用いた気孔のCO_2応答の解析は, 今後も引き続き行う。
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