研究概要 |
本年度は前年度に室温動作する走査型マイクロ波顕微鏡(Scanning Microwave Microscope ; SMM)を製作して得られた知見をもとに、低温動作するSMM測定系を構築した。コンパクトな同軸共振器プローブ(共振周波数fo=11GHz)の中心導体からトンネル電流を検出し、その値が一定に保つようにフィードバックをかけることで探針試料間距離を試料から数nmにコントロールしながら試料の局所的なマイクロ波応答を測定する。低温にすることによって無酸素銅製の共振器プローブのQ値が1000以上に高まり、室温よりも高感度の測定が可能になった。完成後、空間分解能を評価するために、まず劈開によってフラットな表面が得られるトポロジカル絶縁体Bi_2Se_3や鉄系超伝導体Fe (Se, Te)の測定を液体窒素温度(77K)で行った。トポグラフ、Q値、共振周波数の分布を同時にスキャンした結果、試料表面の1nmほどのステップに対してもプローブの共振特性が変化し、Q値、共振周波数の像に現れた。この変化は、ステップ部分での探針近傍の電磁界分布の変化の影響を拾ったものであり、試料の物性に関係する本質的な変化ではないが、製作した装置のマイクロ波応答に対する感度が優れていることを示している。 研究科の共通施設である低温サブセンターのヘリウム液化装置の更新の影響で、本年度後半は液体ヘリウムを使用した実験を中止せざるを得なくなった。来年度液体ヘリウムの供給が再開後、この装置を用いて液体ヘリウム温度において高温超伝導体の不均質な電子状態における複素電気伝導度の測定を行う予定である。 また、前年度に引き続き本研究と並行して従来のバルク測定手法(空洞共振器摂動法によるマイクロ波表面インピーダンス測定)を用いて鉄系超伝導体の超伝導ギャップ構造や磁束コア内の電子状態の研究を行った。その結果は論文として発表した。
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