研究概要 |
水ストレス下にある植物の茎では高い陰圧が道管液にかかる. このとき, 木部にある気体が, 道管表面にある壁孔を通して内部へ引き込まれ道管内腔を塞ぐことで水の輸送を妨げる. これを空洞現象と呼ぶ. 空洞化した道管の水輸送能力回復には, 道管内に入り込んだ気泡に陽圧をかけて周囲の水に溶かし込む必要がある, しかし近年, 木部に陰圧がかかった状況でも, 空洞化した道管へ水が再充填されることが多くの植物で確認されている. 空洞化した道管への水の再充填が陰圧下で起こることは, 一見すると物理的に矛盾しているように感じる. 隣接する道管の水には陰圧がかかっているにも関わらず, 再充填中の道管内の水と気体には陽圧がかかっている状況下では, 再充填中の道管内の水が, 周囲の陰圧下にある道管へ引き込まれてしまい, 結果として再充填は決して完成しないように思える. このことに関して現在, 再充填中の道管の壁孔内に気泡が入り込んだ構造(pit valve構造)により, 道管内の水と陰圧がかかっている周囲の水とのつながりが断ち切られるという説が提唱されている(pit valve説). しかし, 仮説は提唱されているものの, 決定的な検証はなされていない. 平成24年度までに, 落葉広葉樹ヤマグワを用いた単一道管レベルでの実験により, 再充填中の道管液に掛かる圧力がある程度高くても, pit valve構造が維持されるという結果を実測から得ている. 道管内腔の再充填が, pit valve構造が安定して存在できる圧力より小さな陽圧で行われていれば, pit valve構造により陰圧下での道管の再充填が行われる可能性がある. 平成25年度は, 陰圧下での再充填現象が先行研究で確認されているゲッケイジュにおいても, ヤマグワと同様の結果を得た. このことに加え, 再充填中の道管内にかかる圧力の実測方法の確立し, 再充填中の道管内にかかる圧力とpit valve構造が維持できる圧力を比較することにより, 再充填過程を通してpit valve構造が維持されるかの検証を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では, pit valve構造が安定して存在できる圧力と実際に再充填中の道管内にかかる圧力を比較することで, pit valve説を検証する予定であった. しかし, 実際に再充填中の道管内に陽圧が生じることを確認しているものの, 空洞現象を起こした道管が再充填されて通水機能を回復し, 道管液に陰圧がかかるまでの道管内の圧力変化を測定するまでには至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず, 空洞現象を起こした道管が再充填されて通水機能を回復し, 道管液に陰圧がかかるまでの道管内の圧力変化の測定を目指す. これにより, pit valve構造が再充填過程を通して安定して存在できるかを評価し, pitvalve説を検証する. また, 空洞化した道管が通水機能を回復するには, 最終的にはすべてのpit valve構造が崩れ, 再充填された道管液が周囲の道管液とつながる必要がある. 多数ある壁孔内のpitvalve構造の一部が崩れたときでも, すべての壁孔内の気泡が周囲の液体に溶け込めるような陽圧が維持できるのか, 木部柔細胞からの流入速度と周囲の道管への流出速度を評価し, そのバランスから検証する.
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