研究課題/領域番号 |
12J09153
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
速水 賢 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 部分無秩序 / 電荷秩序 / 幾何学的フラストレーション / 遍歴電子系 |
研究概要 |
本研究課題の目的は、局在電子と遍歴電子から成る近藤系における量子臨界領域近傍で、幾何学的フラストレーションがもたらす新しい物性を理論的に解明することである。ここでは、こうした新奇物性のひとつとして部分無秩序と呼ばれる特異な磁気状態の研究を行った。本年度は、金属的な部分無秩序がどのような状況において安定化されるかを解明した。具体的には、近藤系を記述する典型的なモデルである周期的アンダーソン模型を三角格子上で考え、ハートリー・フォック近似による計算を行うことにより、基底状態相図を明らかにした。その結果、ハーフフィリングと他のコメンシュレートフィリングで、異なる特徴を持つ2種類の絶縁体的な部分無秩序状態を見出した。両者の共通の性質として、どちらも電荷秩序を伴っており、電荷の自由度が部分無秩序状態の安定化機構に重要な役割を果たしていることを見出した。また、非磁性サイトを中心とする電子波動関数の空間的な広がり方に定性的な違いが見られ、その空間構造の違いが状態密度にも強く反映されていることを見出した。一方で、他のコメンシュレートなフィリングにおける部分無秩序状態にホールドーピングを行なうことによって、これまでに理論的には得られていなかった金属的な部分無秩序状態が発現することを明らかにした。また、幾何学的フラストレーションのない正方格子や立方格子についても調べ、磁性サイトと非磁性サイトが共存した電荷秩序状態が発現することを見出した。特に3次元立方格子における電荷秩序相では、電荷秩序が有効的に磁気的なフラストレーションを誘起し、電荷秩序と非共面的な磁気秩序(多重Q磁気秩序)が共存した特異な状態が実現することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は平成24年度に、部分無秩序に対する変分モンテカルロ計算を行い、量子揺らぎが部分無秩序に与える影響を調べる予定であったが、現状はまだテスト計算を行なっている段階であるため。また、電荷秩序や多重Q磁気秩序といった新奇な秩序相が近藤系において発現するのを見出し、これらの秩序相の解析を行ったことも理由の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度以降は、部分無秩序、電荷秩序、多重Q磁気秩序といった新奇な秩序状態における輸送特性、電子相関の効果を中心に調べていく予定である。具体的には変分モンテカルロ、クラスター動的平均場理論という2つの手法を相補的に用いることによって研究を進める。前者は空間揺らぎを十分に取り込んだ基底状態の計算が可能であり、平均場近似で得られた状態が量子揺らぎの効果によりどのような影響を受けるかを調べることができる。後者は伝導特性を含めた有限温度の振る舞いを計算できることが特徴で、比熱や帯磁率、電荷感受率、電気・熱伝導度といった物理量の温度依存性を具体的に計算することにより部分無秩序や電荷秩序に特有な物性を抽出する。本年度は、これら2つの手法のコード作成、テスト計算を行い、物理量を計算する段階まで進める予定である。
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