研究代表者は、幾何学的フラストレーションの下で発現する新奇物性のひとつとして、部分無秩序状態と呼ばれる磁気秩序状態を研究してきた。本年度においては、幾何学的にフラストレートした格子構造をもつ三角格子とフラストレートしていない正方格子や立方格子の結果を詳細に比較することにより、格子構造の違いが部分無秩序をはじめとする電子系の秩序状態にどのような影響をもたらすか、また実験で部分無秩序物質と報告されているUNi4Bのスピン構造を実現するための微視的な模型はどのようなものであるか、を理解・解明することを目指した。 まず前者に対しては、幾何学的にフラストレートしていない正方格子や立方格子上の近藤格子模型を考え、ハートリー・フォック近似、モンテカルロ計算、クラスター動的平均場近似という3つの相補的な手法を用いることにより、量子揺らぎの効果を調べた。その結果、部分無秩序状態で見られた電荷秩序状態と正方格子や立方格子上のクォーターフィリングにおいて報告されていた電荷秩序状態との類似点や相違点を明らかにした。また、どちらの相においても、遍歴電子と局在スピン間に働く交換相互作用が、相の安定性に重要な影響を及ぼすことを明らかにした。正方格子や立方格子上の電荷秩序状態においては、磁気秩序の存在は必ずしも必要ではないが、一方で三角格子上の部分無秩序状態で見られる電荷秩序は系が磁気的なフラストレーションを解消することによって生じることから、磁気秩序が本質的に重要な役割を果たしていることを明らかにした。 後者に対しては、部分無秩序物質であるUNi4Bを対象として、この物質で観測されている渦状の磁気構造を再現する微視的な模型を構築することに成功した。さらに、UNi4Bにおいては、新奇な内因性ホール効果が生じる可能性があることを指摘した。
|