研究課題/領域番号 |
12J09291
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鷲尾 和久 東京工業大学, 大学院・理工学研究科(理学系), 特別研究員(DC2)
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キーワード | 量子ドット / 量子ホール効果 / メゾスコピック系 / 物性実験 |
研究概要 |
本研究課題では、量子光学、及び量子電子輸送で培われてきた知見をもとに、量子電子波光学の基礎技術となるエッジチャネルへの単一電子波束の生成・制御・測定を目的としている。平成24年度は、量子ホール系における単一電子の緩和メカニズムを探るために、電子系のダイナミクスを測定可能な量子ドットによる時間分解トンネル分光法に関する研究を行った。時間分解トンネル分光とは、エネルギーフィルタの役割をする量子ドットのエネルギー準位を、量子ドットに高周波を印加することで高速に変調し時間分解能を実現した、時間分解能とエネルギー分解能を併せ持つ新しい測定手法である。平成24年度では、本測定手法のために最適化された素子構造を持つデバイスを新たに作製した。このデバイスを用い、希釈冷凍機温度(~30mK)において、エッジチャネルを伝搬してくる電荷集団に対して、時間分解トンネル分光を行い本測定手法の実証を行った。本研究において、時間分解トンネル分光法によりエッジチャネル上に励起された電荷集団が伝搬してくるソース側とグランドされたドレイン側とで電子温度が異なることが確認された。この結果はエッジチャネル上に励起された電荷集団の電子温度を時間分解トンネル分光法によって測定可能であることを示している。また、本測定手法の妥当性を評価するために、時間分解トンネル分光法のモデル計算を行った。このモデル計算において、ドット内のエネルギー準位が離散的である量子トッドの場合とドット内のエネルギー準位が連続的である古典ドットの場合において数値計算を行い、どちらの場合においても分光測定が可能であることを示した。 平成24年度の研究により、時間分解測定及びエネルギー分解測定といった単一電子のエネルギー緩和メカニズム解明のために必要な実験技術を確立できたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究において、時間分解トンネル分光法という新たな測定技術を確立した。この測定技術を用いることにより、単一電子のエネルギー緩和メカニズムの解明や単一電子波干渉実験といった量子電子波光学の研究が進展すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に確立した時間分解トンネル分光法を用いて、エッジチャネル上に射出されたホットな電子のエネルギー緩和メカニズムに関する実験的研究、及び電子の量子統計性に関する実験的研究を推進する予定である。 本研究課題では、液体ヘリウムを利用した極低温実験環境が必要であるが、昨年末に発生した世界的なヘリウム不足により、研究の推進に支障をきたす恐れがある。この問題に関しては、測定の効率化や無冷媒希釈冷凍機の利用等により対応する予定である。
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