平成25年度は、単一電子の伝送路であるエッジチャネル間の相互作用を探るために、対向するエッジチャネル間におけるエネルギー輸送に注目し研究を行った。本研究対象である整数量子ホールエッジチャネルは一方向性一次元伝導チャネルであり、通常は朝永-ラッティンジャー液体とはみなされない。しかし、複数の逆向きのエッジチャネルを接近させ相互作用を導入することで、人工的な朝永-ラッティンジャー液体を形成することが可能となる。相互作用する一次元電子系は、朝永-ラッティンジャー液体として知られ、そこを伝搬する電子はプラズモンの集団励起モードとして理解することができる。現在までに、高周波測定により、電荷分断化現象やスピン電荷分離などの朝永-ラッティンジャー液体の励起素過程を実験的に検証できるようになった。このような現象が生じる系において量子ドットによって電子のスペクトルを観測した場合、フェルミ分布とは異なる特徴的なスペクトルが現れると期待される。本研究では、対向する複数のエッジチャネルにより構成された人工的朝永-ラッティンジャー液体におけるエネルギー輸送を調べた。我々はランダウ準位占有率n=2において、ゲート電極により隔てられたエッジチャネルの片側に電子を入力し、静電的に結合したもう片方のエッジチャネルに励起される電子のスペクトルを、量子ドットを用いて観測した。我々は、ベース温度に近い低温成分と励起エネルギーに匹敵する高温成分からなる二成分スペクトルを観測した。電子の入力地点と観測地点を変え測定を行った場合にも、チャネルの方向性に無関係に二成分スペクトルは観測される。これはプラズモンによる伝搬モードを示唆している。また二成分スペクトルは複数のプラズモンモードの励起として理解できる。この研究成果は、複数の伝送路を単一電子が伝搬の際に生じる伝搬モードの解明に繋がる重要な成果である。
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