研究課題/領域番号 |
12J09321
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
レ ヒユインテイエンドウツク 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | エラスチン / ブロックポリペプチド / 自己集合 / 細胞外マトリックス / 階層構造 |
研究概要 |
エラスチンは、血管や皮膚に含まれるタンパク質であり、組織の弾力性保持に重要な役割を果たす。エラスチンの示す低弾性率や復元性は、エントロピー弾性を示すエラスチンモノマー分子が自己集合し、高度に架橋した階層構造を形成することで発現する。近年、エラスチンのその力学特性、自己集合性から、エラスチン由来ポリペプチド(ELPs)が化学的や遺伝子工学的手法などにより作製され、生体適合性や優れた力学特性などを示す代替材料として期待されている。 しかしながら、これらのポリペプチドから天然エラスチンに見られる集合構造を得るのは未だに困難である。本研究の目的は構造の制御されたエラスチン由来ブロックポリペプチドからなる集合体をビルディングユニットとして、生体に見られるような階層構造を持つ再生医療のための足場材料を構築することである。 本年度では、温度や有機溶媒といった因子が作製したエラスチン由来ブロックポリペプチドの自己集合過程にどのように影響を与えるかを詳細に調べた。まず、温度刺激の効果について調べた結果、作製したブロックポリペプチドが水中で、45℃、1週間放置すると、自己集合により均一かつ柔軟なナノファイバーが形成する現象を見出した。一方、単独の各構成ブロックは同じ条件下で粒子と短いフィブリルしか形成しないことから、天然エラスチン分子を単純化したブロック構造の重要性が示された。そして、自己集合過程について原子間力顕微鏡(AFM)により、作製したELPsが高温で初めてナノサイズの粒子を形成する現象が観察された。時間が経つと、粒子と粒子がさらに相互作用して、数珠状のナノファイバーが形成する。この集合体は今までのELPsの自己集合の報告例と違い、別の集合体を形成した。このファイバーは長時間水中でよく分散するため、材料作製プロセスにおいて有用であると考えられる。また、有機溶媒である2,2,2-Triflouroethanolの添加重を変えることにより、ナノファイバーや粒子を作り分けることができ、水中における自己集合の系と比べるとファイバー形成がより促進される。今後、これらのナノファイバーの力学特性の評価とともに、ナノファイバーをビルディングユニットとして組み立て、生体材料を構築すると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
作製したエラスチン由来ブロックポリペプチドの水中における自己集合過程に温度や有機溶媒の効果を詳細に検討することにより、デザインしたブロックの意味を明らかにすることができた。また、得られたナノファイバーである集合体は均一かつフレキシブルで、水中においても分散性がよく、材料作製際に期待できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
得られた集合体を薄膜にし、引っ張り試験による材料の力学特性評価などを行っていく。このことにより、集合体構造・機能(力学特性)の相関を解明する。さらに、ファイバー形成に重要な役割をする(VGGVG)配列のほかにさまざまな自己集合性を示すドメインを変えて、新規なエラスチン由来ブロックポリペプチドの種類を拡張する。その他に、コラーゲンの変性体であるゼラチンとハイブリッド材料として、エレクトロスピニング手法で、生体と近い構造を構築する。その材料を細胞と相互作用させ、細胞生存率や細胞成長分化の各検討を行い、材料を評価する。
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