研究概要 |
Ti-Niに匹敵する巨大超弾性歪みの発現を実現するために,六方晶マルテンサイト相(α'相)に起因する超弾性を発現する可能性のあるβTi-Au-Cr-Zr合金に着目した.本年度は,相変態時に形成されるマルテンサイト相の結晶構造を精密に検討するために,まず,合金組成を系統的に変化させたTi-Au-Cr-Zr合金を作製し,相構成の解明と格子定数の精密測定を行った.その結果,本合金に形成されるマルテンサイト相は斜方晶(α"相)に分類される結晶構造を有するものであることが明らかになった.しかし,本合金のα"相とα'相のc/a値の差は-2.9%であり,これは過去に超弾性の発現が報告されているTi-24Nb-3Al(at%)合金における差の-14%と比較すると非常に小さく,Ti-Au-Cr-Zr合金のα"相の結晶構造は六方晶に極めて近いことが判明した.これにより発生する格子変形歪みの最大値は,Ti-Niの格子変形歪みに匹敵する-9.6%と評価できた.形成されるマルテンサイト相が六方晶に限りなく近いにもかかわらず超弾性が発現した理由として,試料内に残留する母相の影響を考えた.検証のために,室温における構成相が母相単相で,かつ,超弾性が発現する試料を用い,これを冷却により母相からマルテンサイト相に完全に変態させ,その状態で形状記憶効果が発現するのか検証を試みた.しかし,液体窒素温度でのXRD測定の結果,冷却してもマルテンサイト変態は起こらず,母相を完全に消失させることは困難であった.そこで,溶体化後,室温下の構成相がマルテンサイト相単相となる試料を作製して同様の試験を行った.その結果,母相が残存しなくても形状記憶効果を発現することが明らかになった.すなわち,本合金のように六方晶に極めて近いマルテンサイト相においても形状記憶効果が発現できること,および,本合金の形状記憶効果の発現は,残留母相に因るものでないことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
透過型電子顕微鏡用の試料作製が困難なため.合金が耐食性に優れる金(Au)とクロム(Cr)を含むため,酸による腐食が困難である(ジェットポリッシュ法).現在,切削による加工(ディンプルグラインダ法)を検討しているが,加工時の応力で試料の相構成が変化する可能性があるため,加工条件を慎重に検討する必要がある.
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