研究概要 |
Ti-Niに匹敵する巨大超弾性歪みの発現を実現するために, α'相マルテンサイト相(六方晶)に起因する超弾性を発現する可能性のあるβTi-Au-Cr-Zr合金に着目した. 前年度の研究によって, 本合金で形成されるマルテンサイトは, 六方晶に極めて近いα"斜方晶であること, また, 応力負荷時にマルテンサイトと残留母相間に生じる応力場は超弾性メカニズムに影響を与えないことを明らかにした. 本年度は, 透過型電子顕微鏡により負荷前と負荷によってマルテンサイトを誘起させた試料の内部組織を観察した. その結果, 負荷前の試料では通常のβTi超弾性合金と同じく, β相(立方晶)と試料の急冷によって無拡散で形成されるathermalω相(六方晶)が観察されたが, その他の析出物は観察されなかった. また, 応力負荷後の試料でも誘起したα"斜方晶のみが観察された. また, athermalω相は等価な4個のバリアントが均等に形成されていた. 通常のβTi超弾性合金と応力負荷前, 応力負荷後の内部組織に差が見られなかったため, 本合金の超弾性は逆変態時に, 斜方晶の対称性の低さによって, バリアント選択が働くため発現すると考えられる. この結果は同時に, 六方晶(b/a=1.73)からの歪みが僅かな斜方晶マルテンサイト(b/a=1.68)でも超弾性が発現することを示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
透過型電子顕微鏡用の試料作製に時間を必要とするため. 合金が耐食性に優れる金(Au)とクロム(Cr)を含むため, 酸による腐食が困難である(ジェットポリッシュ法). 現在, 切削とイオンビームによる加工(ディンプルグラインダ法)により試料を作製しているが, 加工熱で相構成が変化するため, 冷却をしながら, かつ, 加工速度を極力落とす必要があるため, 試料作製に膨大な時間を必要とする.
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